ショートショートシアターのシュガー
高丈敏
結
目の前、女の子が体育座りで仏頂面を浮かべてた。
金髪に染めた肩までかかる髪を左右違うリボンでツーサイドアップに結った可愛らしい娘だ。
桃色ベストの夏制服と丈の短い青いスカートの合間からこれまた可愛らしい白い薄布が見える。
顔は仄かに紅潮し、潤んだ上目遣いでほおをぷっくり膨らませて可愛い。
さて、どうしたものか……。
時間帯は深夜23時。俺の住むアパートの部屋の扉前に鎮座してる。このまま放っとくのは色々危ない。
帰りが遅かった俺に非難の目を向けつつ彼女は……俺の友達、
「家出してきた……泊めて」
「別に良いけど家族は……ってそんな心配してもらえないんだっけか」
「いいもん。だって
唐突なデレ。なんか凄く重い発言。
暁の家庭事情はかなり厄介なので深く説明しないがまあ端的に言うと、親が徹底的に家族としての愛情や絆を放棄してる。
「もう、あんな家嫌だよ……」
暁が俯いて悲しげな表情をした。頬に涙が伝う。
その様子を見て俺は以前から温めていた提案を口にする。
「……俺と結婚しないか?」
「へ?」
俺の突飛な話に不意に変な声を上げる彼女。
俺たちの家庭環境は少し似通っていた。
中学の時に出会った俺たちに接点はあまりなかったが一度だけ行われる授業参観で互いの事情を知ることとなり、シンパシーを感じて友達となった。
放課後はだいたい一緒に学校に残っては雑談したり勉強したり。高校進学と共に自然消滅する関係かと思っていたが彼女はそれを良しとせず着いてきてしまった。
以来共依存のような腐れ縁が互いに18となった今でも続いてる。
だが俺は高校3年となった機に家族を説得して独り暮らしを始めた。
バイトを掛け持ちして高校の学費と生活費、貯金を捻出してる。
それを暁に伝えたとき彼女は寂しそうに微笑むだけだった。
だが違う。俺は家族を棄てたいからじゃない。
全ては友達以上の関係になった大切な人の家族になるために。独りで泣いているあの娘の孤独を埋めるために……。
そして今日、彼女の口から言質は取れた。
ムードなんて無いが関係ない。泣いてる彼女を見ただけで決心はより強固な物になった。
「暁さん。俺、南海周防と結婚してください……」
「そんな……私……。幸せになれるかわからないけど良いの?」
「ああ。俺も暁さえいてくれればそれで良い」
「めんどくさいし重いよ。色々要求するかも……苦労も半端ないよ」
「そんなのとっくの昔から知ってる。俺も似たようなものだって知ってるだろ。それに覚悟も決めてる」
「じゃあ、覚悟示して。証明……して」
「証明?」
「ただの友達じゃない。その証明」
「ああ……わかった」
アパートの玄関先で口唇と口唇を合わせあう深夜0時。
一瞬のはずがとても永い数秒。
二人の頬には悲しみとは違う涙が伝っていた。
ショートショートシアターのシュガー 高丈敏 @hiro-5001
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