チョウチョさん

去年うまく飼育できなかったこともあり、今年はアゲハチョウは育てないことにしていて、庭の山椒の木にたくさんのアオムシがついても、放っていた。(自然のままでも5齢までは大きくなっていたが、恐らくまるまる太った頃にハチか鳥に獲られて、いなくなった)


ところが、学校の帰り道の山椒の木についていたと、アオムシを4匹くらい息子が手に乗せて帰って来た。

息子は、昔から、いわゆるイモムシが大好きで、それが何の幼虫だろうが、手触りを楽しみ愛でる。

ばあばにとっては害虫であっても、潰したりすると泣く。

それほど好きなアオムシ、しかもアゲハチョウの幼虫を見つけ、手のひらに乗せて持って帰って来た。


捨てて来なさいというのも可哀想だったし、庭の山椒の木に放しても、餌となる結果は見えていたので、ちゃんとじぶんで餌(山椒の葉っぱ)をあげなさいね、ということで仕方なく飼うことにした。

娘と世話をしていたダンゴムシと共存させることにした。

共存と言ってもお互いに干渉することはなく、ただ同じ虫かごにいて、もしかしたら、アオムシの糞がダンゴムシの餌になっているかもしれない。


そして、結果から言うと、途中でなぜか数が増え、8匹となり、昨日の時点で、5頭が無事に羽化し、1頭が蛹、1頭はまだ5齢幼虫でいる。


何年かぶりに家で羽化させることができたときには感動したが、娘は、アオムシや蛹よりも大きく、しかもバタバタ動く蝶を怖がっていた。

たぶん、いきなり家に大きな蝶々がいてびっくりしたのだと思う。外出てって〜感じだった。

なんとか、アオムシと蛹と蝶が関係していることを伝えたくて、羽化するところを見せてあげたかったのだけど、早朝の羽化が多く、朝起きて居間に行くと、いきなり蝶々がいるパターンを繰り返していた。

たまたま娘がお腹を壊して療育を休んだ日、午前中に羽化したのがいて、見せることができた。濡れ濡った羽の蝶に向かって、「チョウチョさん頑張って〜」と友達になることができた。


途中で数が増えた理由は、息子が再び学校帰りに連れて帰って来たこと、餌で採った山椒の葉っぱにくっついていたこと。そしてあとの1匹は、蛹になるタイミングで行方不明になり、大量の液体が残されていたため、蛹化に失敗して死んでしまったと思っていた。


ところが、ある日突然に、蛹を確認していた以外のアゲハチョウが部屋の中にいたことから、それがそれなんだ思う。

ただ、この蝶は、見つけたときにはすでに左右ともの羽が右に折れ曲がってしまっていて、すでに固まってしまっていた。

おそらく、どこか狭いところで蛹になってしまい、羽化する時に羽をきちんと伸ばすことができなかったのだと思う。


そして、残念ながら、飛ぶことができなかった。


他の蝶は、部屋の中で上手に飛べるようになってから外に放し、相棒を探しにどこかへ飛んで行っていたのだけど、その羽の曲がったチョウは、外に放さず、バルコニーに住まわすことにした。

バルコニーの植物の上に捕まらせると、慌てて上の方によじ登り、じっとする。

もうちょっと羽が乾いたら、飛べるはずなんだけどな…と言っているようだった。


人が近くに寄ると驚いて落ちたりするが、歩くことはできるため、植木鉢の縁や、植物の上など、それなりに好きなところにいたりした。幸い、バルコニーには他の虫や鳥がやってくることがほとんどないので、地面をぴょこぴょこ移動しても獲られることはない。


ただ、バルコニーにはほとんど花がなく、蜜を吸うことができていないようだった。調べてみると、砂糖水とかを口吻をピンセットなどで伸ばして吸わせてあげると良いということなので、やってみたが全く吸う気配がない。お腹が空いたら吸うかなと思ったが、翌日も吸わなかった。

まあ仕方ないかと思っていたが、数日後にたまたまハルを学校に迎えに行き、校門の前で待っていたときに、大きな花にアゲハチョウが群がっているのをみて、うちの庭に咲いているムクゲでもいけるかな?と思い、あげてみた。

すると、大きなメシベによじ登り、抱きつくようにしていて、おそらく蜜を吸っていた。5個くらい花をあげると、次から次へと吸い付いていた。


もしかしたら、生まれて初めて(生まれ変わって初めて)の御馳走だったかもしれない。

存分に蜜を吸うと、壁をよじ登ったり、地面を歩き回ったりしていた。

何のための行動なのかわからないけれど、お腹もいっぱいになったし、遠くに飛んで行かなくっちゃ、という風に見えた。


次の次の日、しばらく見かけなかった蝶を探してみると、バルコニーの椅子の下で動かなくなっていた。蜘蛛の巣にひっかかって力尽きたようだった。

娘に動かなくなった蝶を見せると、何だか悲しそうな、神妙な顔をして、観察していた。

園長先生と同じお空に行っちゃたんだねと言うと、うん、とわかっているようだった。


何年か前に息子とキアゲハを育てたときには、蛹が死んじゃったり、蝶を放すお別れの時とかに、涙涙だった気がするが、今回は息子は泣くことはないし(ちっとも餌をやらないので、怒られてなくことはしょっちゅうだけど)、娘の場合はもう少し冷静に、それでも自然の美しさとか、命のこととか、ちょっと伝わった気がする。

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