ソウルレスワン

@ballade30

プロローグ ある者の回想

 存在しない死の振動が、都市を劣化させる。得体のしれない喪失感と感覚の欠如が、身体の欠如となって現れる。青白い炎が鬼火のように、真夜の幽霊となって、都市の酸化した正面を覆う。彼らは死んだのだ。髪にまとわりつくその残留思念は、私たちの言葉だ。それは今や霧の言葉だ。それは都市の薄暗い膜、熱の痕跡。俺は言った「頼む早くいってくれ。頼む」私は少女に叫んだ。それは海のような轟音を携えたもっとも透明な言葉だった。少女は言った「いやだ」と。透明な時間が不透明化した時、世界の先駆性は喪失する。「永遠は存在しない。あるのは差異だけだ」そんな中、光が部屋に現れる 。果たしてそれは死神たちを追い払うロゴスか、それとも意味を遅らせる言葉の太陽か。「スフィアは来ているか。」俺は懸命に言った。「スフィアですか。まるで神様みたいな名前ですね。」彼女は言った、この状況で微笑みながら。

 死の季節は過ぎ去ることなく、都市の上空を覆う。俺の血液を見ながら、少女はそれを綺麗だといった。俺は回想する。果たして彼女は私を見ているのだろうか。私に向けられた少女の空虚な眼差しは、とても透き通っていた。時間とは喪失することだ。敵が迫っている。見えない敵が猟犬を携えて、死の気配を漂わせる。終わりが迫っている。光が失われつつある。光が先か、それとも後か。水夫は眠る、再生を夢見ながら。死の進行が都市を覆う、書類と規律の都市を。

 そして計画された冬がやってくる。ロケットの夏の都市の冬が人々の視力を奪い、盲目の中の死を告げる振動が人々を震わせていたころ。このようにして、彼は死んだ。熱の喪失が騒がれていたころ、母のぬくもりも無く、彼は深淵を見たのである。

 言葉は他者の実存を享受する事により機能する。言葉は光となって我々を照らす。

 差異はどこからやって来るのだろうか。差異は死の起源である。差延さえんされたものの永遠の時間は、我々をどこへ連れていくのか。死を忘れるな。我々は世界という深淵に貫かれている。我々は向き合うべきだろう、世界がある限り私が死ぬということを。彼は、どのようにして死んだのだろう。我々は自由なのだろうか。私は彼の死体を処理する。行動を隠ぺいするための青白い炎が上がる。臓物を露出し、死の体現者となり、アンリルソーの死の寓話の中へ消え去るのだ。彼は永遠に凍り付く。言葉と身体の狭間で。

 少女の空虚な視点とは深淵を見つめても、見つめ返されない鏡の視点のことだ。私が彼となぜ出会い。どのようにして別れたか。私は語り始める。少なくとも私が知る範囲の物語を。ささやかな、ある少女とある男の物語を。



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