第62話

「それじゃあ今日は、カインたちは相手の拠点を攻めてみてね」


 ティファのやらかしの後、私たちは今までのコア同期以外の方法についても、試行錯誤を続けていた。

 まずはオーソドックスな、拠点を守るグループと、広場で戦うグループと、拠点を攻めるグループに分ける方法。


 コアを守るのはセシル、広場でカインの行手を阻もうとする相手と戦うのはアンナのグループの役目だ。

 初めての戦法でドキドキを感じながら、私は広場からスタートする人たちに薬を配る。


 攻城戦が開始してすぐに戦闘になる可能性があるため、各自が自分で薬を使うという方法が採用された。

 今までのように私が投げる方法では、どうしても一定の時間が必要になってしまうからだ。


 その結果は……。


「やっぱり、サラが薬を使うっていう効果はすごいんだよなぁ」

「そうだねぇ。わたしも、いつもの調子が出なくてかなりやりにくかったよ」


「S級ともなると、皆さんそれなりに強化薬も用意されてきますからね。数では負けてないでしょうが、今までの【二倍の効果】というものをかんがえてしまうと……」

「そうだよな。改めて、薬師の、サラさんのパッシブは優秀だと思い知らされる」


 攻城戦が終わり、反省会をカイン、アンナ、ハドラーそしてセシルと共に行っていた。

 結果は辛勝。


 アンナのグループはなかなか相手を倒しきれず、カインもコアのある広間まではたどり着けたものの、コアの破壊は出来なかった。

 時間終了数分前に、セシルのグループが広場まで向かったおかげで得点差で勝つことが出来た。


「やっぱり。サラはスタートは広場からにしてみたらどうかな? そうしたら、少なくとも二つのグループには薬使えるわけだし」

「しかしそれではサラさんが使い終えるまでに、薬の効果なしで相手の攻撃を受けなくてはなりません」


「わたしゃいいアイデアが浮かんだよ! みんなが先に自分で薬を飲んで、後からサラちゃんが薬をみんなに投げてくれりゃいいんだ! どうだい!?」

「それじゃあ、今まで以上にサラさんに薬を用意してもらわないといけないだろ? それは無理だよ」


 無理、ではないけれど、確かに実質二倍量を毎回用意するとなると、かなり厳しいのは間違いない。

 それをするくらいなら他の方法を考えてくれた方が助かるものだ。


「じゃあさ、毎回。コアを同期させる人をランダムにするってのはどう?」


 私だけだと分かってしまえば相手の狙いもつけやすくなってしまう。

 だけど、戦うたびに誰かわからなくしてしまえば、相手も的を絞れずにこまるんじゃないだろうか。


「でもさ。そのコアを同期した人はどうするの? 戦いに出て、うっかり死なれたらそれっきりだよ」

「そうだな。もし、戦わずに離れたところに居たら、結局そいつが優先的に狙われるだろうし」


 その後も色々と試してみたものの、結果はあまり芳しいものではなかった。

 運よく勝ちは続けられているものの、危ない状況になることも多く、少し相手の対応が違えば負けていそうな場面も何度かあった。


 そんな試行錯誤を続けていたある日のこと。

 授業中に攻城戦の戦法を考えていた私にマリナが話しかけてきた。


「どうしたの? 悩み事?」

「え? あ、うん。ちょっとね……」


 そう答えると、マリナは私の隣に座り、話を続けた。


「なになに? 相談なら乗るよ? まさか、恋とか!?」

「違うよ。えっとね、前から言ってるゲームのこと」


「ああ。前オフ会行ったやつね。それがどうしたの?」

「えっとね――」


 マリナはオンラインゲームは全くやらないことは知っているのに、不思議となんでも話したくなる不思議な雰囲気を持つ子だ。

 私は今考えていた攻城戦のことについて、出来るだけ分かりやすく要点だけを説明した。


 全て話し終えると、マリナは顎に手を当てて考えるそぶりを見せた後、こともなげに彼女の考えを述べた。


「ふーん。それってさ。つまり、サラが将棋の王将ってことでしょう? 取られたら負けっていう」

「うん。今までのやり方だとそうなるね。でも、私は強くないから……」


「だったら、サラを守るナイトを周りに置けばいいんじゃないの? どんな攻撃からも守ってくれるような」

「えーそんなの……え、そうかも。いや、でも……」


 マリナに言われたことを頭の中で巡らす。

 確かに私がコアを同期していることがバレたとしても、私自身が守られるならこれまでのやり方が一番安定して勝てる方法なのかもしれない。


「ありがとう! マリナ!!」

「え? よく分からないけど、どういたしまして」


 学校が終わり帰宅した私は、急いでゲームの中にダイブする。

 早くマリナから聞いた戦法をみんなに話したくて気が急く。


『みんな。攻城戦について話したいことがあるから、集まれるかな?』


 ゲームの中に入ってすぐに、セシルたちにメッセージを送る。

 幸い、全員からすぐに集まれると返信が来た。


「どうしたの? サラ。何かいい案見つかった?」

「うん。あのね。やっぱり、今まで通りのやり方が私たちには合ってると思うの」


「今まで通りってのは、サラさんがコア同期するってこと? でもそれじゃ、サラさんが毎回狙われちゃうじゃないか」

「そう。だからね。私を守って欲しいの。みんなに」

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