第60話

「他は構うな!! あのノームだけを狙え!!」


 相手のクラン、【悠久の風】のメンバーは、行く手を阻もうとするセシルとアンナたちをバッシュ、つまり押し出し効果のあるスキルで押しのけ私に向かってくる。

 遠くを見れば、遠距離攻撃のキャラクターたちも、私に向かって攻撃を繰り出そうとしていた。


 カインたちがそれを防ごうと躍起になっている。

 しかしダメージを受けることすら気にせず詠唱などを続ける攻撃職と、それを必死に回復させる回復職によって、すぐに倒すことができない様子だ。


 徐々に何人かは混戦を抜け出し私の居る方へ向かってきている。

 その行く手を阻むように、後方から遠距離攻撃職や回復職までもが立ち塞がろうとするも、まるで相手にされず押しのけられる。


「サラさん!!」

「サラちゃん!!」


 セシルとアンナも既に防ぐのを諦めて、私の盾になろうとこちらへ向かってきている。

 しかし移動を開始した時点で先に相手がいるため、間に合いそうもない。


 何とかしないとと、私は近付いてくる相手に向かって毒薬を必死で投げ付ける。

 暗闇、麻痺、睡眠。身体の自由を奪う毒を受け、何人かは行動を止めるが、それでも全員を止めるのは無理そうだ。


「行け!! 一斉にだ!!」


 遠方で指揮を出している、相手のクランマスターらしき人の合図で、遠距離攻撃と近接攻撃の一斉掃射が行われた。

 おそらくそれぞれの最も火力に高いと思われる一撃が、私一人に向かって放たれる。


 私は自分の持っている薬を頭に浮かべて、必死で打開策を考える。

 真っ先に思い浮かんだ【神への冒涜】。


 しかし、それを使ったとしても耐えきることはおそらく出来ないだろう。

 ステータスが上がり耐久力が上がったとしても、元が私では多くは望めない。


 回復も出来ないから、ある程度の攻撃を耐えた後はまた元の姿に戻ることになる。

 これだけの攻撃の弾幕を耐えうることは不可能に思えた。


 私は諦めの気持ちで目をつぶる。

 思えばこのクランを結成してから一度も負けなしというのが奇跡だったのだ。


 そんなことができるのはチートをするか、もしくは本当に奇跡が起きているかのどっちかしかないだろう。

 今回負けたけれど、次に勝てば、そして負けよりも勝ちを限りになく多くすれば、やがては目標まで辿り着ける日も来るだろう。


 そんなことを思いながら目をつぶり続けていたけれど、何故か倒された後の転送は起きなかった。

 ゆっくりと目を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。


 次々と私の周りに着弾する相手のスキル。

 しっかりと私をその範囲に捉えた攻撃は、尽く無効化され消えていく。


 ふと、私はとある職業のスキルを思い出す。

 そして心当たりのある人物へと目を向けた。


 隣では、ティファがひざまずき、神に祈りを捧げるように、両手を胸の前で合わせ、目をつぶっている。

 【聖女の祈り】、周囲にいる味方に10秒間だけ無敵効果を付与するスキルだ。


 しかし、そのスキルの効果はそれだけではない。

 無敵効果が切れた後、成女は祈りを捧げた神に命を捧げる。


 つまり、使い終わった後に、術者は倒れることになる。

 これはフィールドなどであっても、その場で回復不可能であり、攻城戦でも例外なく使ったプレイヤーは死亡判定となる。


「ティファ……あなた、あの一瞬でそんな決断を……」


 ティファの失言から今の攻撃まで多少の時間はあったものの、【聖女の祈り】を使うにはかなり長い詠唱が必要なはずだ。

 間に合うかどうか、ギリギリだったのかもしれない。


 ティファは自分がうっかりをしてしまったことに気付いた瞬間に、自己を犠牲にしても私を、このクランの勝利を守ろうとする決断をしたのだ。

 初めての攻城戦で、そんな瞬時に決めたことを驚きながら、繋いでくれたこの一瞬の時間を、私はなんとか有効利用する方法を模索した。


 今は相手も私を倒したと油断して、次の攻撃を繰り広げるまでには一瞬の時間があるだろう。

 そして、私の周囲のプレイヤーも効果範囲の中にいる人たちは無敵効果を受け、生き残っている。


 効果が切れる前にセシルやアンナもここにたどり着くことができるだろう。

 それでも、私が狙われていることには変わりなく、起死回生の一手を見つけなければ、状況を覆すことは難しいだろう。


 そんな思考の中、ティファがこちらに目線を向けていることに気が付いた。

 何かあるのかと私も目線を合わせると、それに気付いたティファはある方向に目線を動かした。


 釣られて私もそちらを向く。

 そこには相手のクランマスターの姿があった。


 もう一度ティファの方を向く私に、ティファは瞬きで合図をした。

 私は相手のクランマスターに目を凝らす。


 すると、彼の身体が淡い光に包まれているのが見えた。

 それは、見慣れた強化薬のエフェクトと、そしてコアを持つ者特有のエフェクトだった。


「カイン!! 相手のクラマスもコア同期者よ!!」

「了解!!」


 私はありったけの声で叫ぶ。

 聞き取ったカインの動きは恐ろしく速いものだった。


 私の声に気付いた相手は、私に攻撃を続けるか、それともクランマスターを助けにいくか一瞬迷ったのか、それぞれの動きが鈍った。

 その隙を付き、セシルとアンナは上手く私に攻撃を優先しようとした者だけを狙い、駆逐していく。


「くそっ!! こいつめ!!」

「なんだい? 人の嫌がることは平気でするけど、自分が同じことをされると怒るタイプ?」


 カインは目も止まらぬ速さでクランマスターを斬り付けていく。

 相手のクランマスターの職業は前衛職ではなかったため、カインの動きについていくことができず、程なくして倒れた。


 その瞬間、コアを壊した時と同じアナウンスが流れ、私たちの勝利が確定した。

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