第59話
「今回はけっこう強いところだな」
カインがそんなこと独り言を言った。
相手クランの名前は【悠久の風】。
前にユースケが攻城戦で負けたと、喚いていたクラン名も同じ名前だった気がする。
確か、かなり連携の取れた動きで攻め込まれ、弱点を上手く突かれ、結局負けたのだとか。
「カインがそんなこと言うなんて珍しいな。どんな感じなんだ?」
「うーん。まぁ、上手いよ。個人の実力自体はそうでもないけど、指揮官のクラマスが上手くてさ。相手の弱いところを一点集中で攻撃してくるの」
セシルも気になったのか、質問しそれにカインが答える。
やはり、弱点を見つけてそこを狙うのが上手いクランのようだ。
「まぁ、うちはそれっぽい弱点なんてないっちゃないけどね」
「ああ、そうだな。俺たちは俺たちの出来ることをやるまでだ」
そう言いながらコアがある広間から、広場へ向かう。
すでにうちのクランが一斉に移動するということは外部にも知れ渡っているのだろうか。
各個撃破を嫌ってか、広場までの道のりで一人も出会うことがなかった。
警戒しながら進んでたものの、途中から相手が居ないと決め込んで、先頭のグループが移動を速めたようだ。
「あいつら、ビビって拠点に攻めてこないみたいだな」
もうすぐ先頭が広場に出るという辺りで、メンバーの一人が軽口を叩く。
私は一瞬イヤな感じがして、先頭に向かって叫ぶ。
「警戒をして! 気を抜いたらダメよ!!」
私のその声は、広場へ出た先頭集団への攻撃にかき消された。
私たちが出てくる瞬間を狙って、遠距離攻撃を一斉に放ったらしい。
「うわあぁぁぁぁ!!」
戦闘を進んでいたアンナのグループのメンバー何人かが直撃を受けた。
幸いすでに強化済みだったため、倒れた者はゼロだったようだ。
「あんたたち! 立ち止まるな!! 来てるよ! 後ろの邪魔になるんじゃないよ!!」
アンナが叫び声が聞こえてきた。
どうやら遠距離攻撃が終わった瞬間、今度は近接部隊が攻めてきたらしい。
アンナの適切な指示により、先頭は後続の進行の邪魔にならないように横に移動したようで、私たちもなんとか広場に出ることができた。
私も出た瞬間に、その場の状況を確認しようと視線を動かす。
アンナのグループのメンバーはなんとか持ち堪えたようで、若干混線状態になりながらそれぞれが戦っていた。
どうやら、ティファが加入したおかげで回復が間に合ったようだ。
私より先に出たカインのグループは近接集団をすり抜け、後方の遠距離攻撃をする集団へと歩を進めていた。
上手くやればかなり有利に立てるだろう。
そして、後ろからカインのグループがいそぎあしで出てきて、アンナのグループの援護に向かった。
見る限り、人数に大きな差はなさそうで、初撃に慌てたものの、後はいつも通りやれば問題なさそうだ。
「みんな! 頑張って!」
私も状況を確認しながら、回復薬と状態異常の毒を投げていた。
私の強化薬の効果もあって、戦況は徐々にこちら有利に傾きつつある。
「凄いです! 攻城戦ってワクワクしますね!!」
回復魔法を放つ合間を縫って、ティファがそんなことを叫ぶ。
どうやら完璧とは言えないものの、ティファなりに役に立っているようだ。
回復職が一人増えたおかげで、アンナも他のメンバーもいつもより攻撃に専念できているようにも見える。
これでティファがカンストして、更に戦闘に慣れてくれれば、かなり楽になるだろう。
「見てください! サラさん! アンナさんたち、敵を倒していってますよ。やりましたね!」
戦況がかなりこっちに傾いて、少し余裕が出てきたのか、ティファは私に向かって嬉しそうにそう言った。
私はその言葉に自然と笑顔になる。
しかし、ティファはそれに続いて思わぬことを口にした。
「コアは
「ティファ!! それは!」
私が叫んだ時にはすでに遅かったようだ。
攻城戦では相手の声も普通に聞こえる。
もちろん小さな話し声などでは戦闘中というのもあって、聞き逃されることもあるけれど、不幸なことにティファの声は大きくそして良く通った。
「おい! コア同期はあのノームらしいぞ!!」
相手の誰かがそう叫んだ。
その声に、相手クランのメンバーも、うちのメンバーも、全員がこちらを向く。
「大変だ!! サラさんを守れ!!」
「あんたたち!! こいつらを一人も通すんじゃないよ!!」
セシルとアンナが叫ぶ。
しかし、すでに相手クランでは意思疎通がなされたのか、今まで相手取っていたアンナとセシルのグループメンバーを構おうとせず、全員が私の方へ向けその矛先を向けた。
「え? え!?」
「ティファ! 詳しいことは後!! 今は目の前のことに集中して!!」
何が起こったのか分からないのか、ティファは動揺を隠せず、うろたえてしまっている。
だけど、今はティファに構っている余裕はない、私が倒されてしまえばそこで負けが確定するのだから。
コアを同期したキャラクターは身体から淡い光を放つエフェクトが付く。
今までバレなかったのは、多くの種類の強化薬を使うことで、そのエフェクトを見づらくしていたおかげだった。
ましてや、私は常に後方に居て、姿自体をはっきり視認するのも困難だったはずだ。
相手も確証が無ければ一点集中で攻撃することはない。
しかし、今はティファの一言で私だということが相手にバレてしまった。
初めて自分に向けられる、明確な敵意に緊張を感じながら、私はこの状況を打開する方法を必死で考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます