第21話
アーサーは本当に話が上手だった。
私が一生懸命話す時は、じっと私の目を見つめて絶妙なタイミングで相槌をしてくれた。
アーサーが話す時は、面白おかしく、全てが興味深く感じた。
そして、声も張りがあり自信に満ちていた。
「そういえば、今はなにか目標みたいなのはあるのかい? 俺はさ、最近目標になるものがなくてね。ま、楽しいは楽しいんだけど」
「え? ああ。昔言ってた、最強を目指すって言うのは諦めちゃったの?」
「ん? 最強? ああ、最強ね。そうだねぇ……」
「そうか。難しそうだもんね。一番強いって」
何故かアーサーは複雑そうな顔をしていた。
やはりまだ最強の夢は捨てられないんだろうか。
「ま、俺の事よりさ。サラの目標を聞きたいな」
「私? 私もね、最強を今目指してるの」
「え!? どういうこと?」
「前居たクランを抜けてね。実は私、蹴られちゃったんだ。前言ってた幼馴染に。あ、でもそれはいいの。でね。今居るクランのマスターが、見返すために攻城戦ランキングで一位を取るって。それが目標かな」
私の話を聞いたアーサーはさらに複雑そうな顔をしていた。
でもどこか、楽しそうな顔をしているようにも見える。
「へぇ! それはすごい目標だね。応援するよ。今どのくらいのランクなんだい?」
「実は、この前やっと五人メンバーが集まったばかりなの。あ、でもね! みんなすごく強いのよ。団体戦もまだ負け無しなんだから」
「なるほどね……まぁ、個の強さも大事だけどさ。攻城戦で重要なのは集団としての強さだからさ。頑張ってね」
「そうなんだ。アーサーは今どのくらいのランクなの?」
今度はすごく真面目な顔つきになる。
アーサーはすごく表情豊かだ。
もともと気持ちが顔に出やすいのかもしれないけれど、それを変に隠そうとせずにむしろ出すことを良しとしている印象だ。
見ていて本当に飽きない。
「俺? あー、メインの方はね。S級だよ。おかげさまでね」
「すごい! S級なんだ!! じゃあ、いつか私たちと当たるかもね!!」
「そうだね。楽しみにしているよ。ところでさ。クランとしての目標は分かったけど、サラの目標は、個人としてのね。それは、ないの?」
「え? うーん。実はね。私は昔っから目指しているものがあるの」
私自身と聞かれて、私は誰にも話したことの無い自分の夢を語った。
それは全ての薬のレシピを手に入れること。
これを聞いてきたのが夢を作る原因となった本人だと言うのが恥ずかしいけれど、私はアーサーとの戦いで、薬を作って助けられたことが本当に嬉しかった。
だから、いつでも必要な時に必要な薬を作り、誰かの役に立てるのが私の夢。
そのためには全ての薬のレシピを手に入れなければいけない。
あれが欲しい、という時に作れない、ではダメなのだ。
新しい素材のものはもちろん、まだ今までの素材でも作りきれていない。
もしこの目標を達成するだけなら、生産ギルドに入った方がはるかに効率的だろう。
でも私は、セシルたちと一緒に戦いながら、この夢を実現したいと思っている。
私でも、後方支援しか出来ない私でも、一緒に居ていいと言ってくれたから。
「そうか。いい夢だね!! そっちも応援するよ。じゃあさ、ちょうどいいものがあるんだ。こっちは倉庫みたいなものでね。使い道が無くて困ってたものだからさ」
「え? なに?」
よく分かっていない私に、アーサーはアイテム譲渡の申請を出してきた。
中身を覗いて私は驚きのあまり目を見開く。
そこには新エリアのモンスターの素材がいくつも並んでいた。
「え!? 悪いよ! こんなの! 売ったらすごい値段になるんじゃないの?」
「ん? あー、そうかもね。でもさ。もう持ちきれないほどあるからさ。露店開くのも面倒くさいし。それにさ、これ。これなんか簡単には売りたくないけど、サラなら何とかできるんじゃない?」
アーサーが指した素材アイテムを見てさらに驚く。
こんな説明文を書いている素材は初めて見る。
【魔血】
魔神ゴルモリアの血。神に逆らう背徳の薬の原料となる。
全ての素材は、薬だけじゃなく他の色々なものの材料になる。
逆に言えば、この【魔血】は、薬の原料にしかならないということだろうか。
正直な話、どんなものができるのか知りたい。喉から手が出るほど欲しい。
「これってどこで手に入れたの?」
「新エリアのさ。ボス。しかもね、通常のボスじゃなくて、たまにしか出現しないレアボスのさ、多分レアドロップかな? 何度か倒したけど、それが手に入ったのは一度だけだったよ」
新エリアのレアボスのレアドロップ……どれだけの価値があるのか既に分からない。
これからどんな素敵な薬が出来るのだろうか……私はワクワクが止まらなかった。
「ねぇ、本当に。本当にいいの? 正直、すごく欲しい。でもね。ただで貰うのは違うと思うんだ。だからね。ちゃんとした値段を言って?」
「えー。うーん困ったなぁ。金には困ってないんだよね。あ! じゃあさ、こういうのはどう? それでもし何かが出来たら。そのアイテムの効果と、レシピを教えてよ。そっちの方が価値があるでしょ?」
「え? レシピを?」
私は少し迷った。
確かにアーサーの言う通り、誰も作ったことの無い薬のレシピは、下手な金よりももっと価値が高い。
しかし、成功したか失敗したかなんて、アーサーには分からない。
それはつまり、私のことを信用してくれている、ということだ。
「分かった。じゃあ、約束する。出来た薬のレシピを、アーサーにこっそり教えるね」
「本当に!? やったぁ。楽しみだなぁ。どんな素敵なアイテムができるんだろう。っと、いけない。用事が出来たみたいだ。長い間ありがとう。もう行くね」
「あ! アーサー! 友録!!」
「え? ああ。そういえばしてなかったね。こっちのでいいかな? メインはもう上限になっちゃってるんだよね」
幸い今度は友達登録をすることが出来た。
これで、何かあればお互いに連絡を取り合うことは出来る。
私は去っていくアーサーに向かって大きく腕を振った。
また近いうちに会えることを願って。
嬉しい気持ちになった私は、その後も少しぶらぶらしてからログアウトした。
明日はセシルたちもログインしているだろうか。
みんなに今日の話をしたらどんな反応をするかな。
眠りについた私は、何か楽しい夢をみたような気がした。
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