雨の中へ続く

@mochi-sui

第1話 カフェオレが飲みたい男

その日もいつもと同じように残業を終えて帰る途中だった。


朝7時に起きて、帰るのは夜9時。

その日はタイミングが悪いことに小雨が降り出してきた。


駅から徒歩20分の安アパートで暮らす自分にとってはコンビニで傘を買うのも痛い出費だ。

住宅街へと続く坂道を駆け足で登る。

途中から雨か自分の汗かもわからないほどにシャツがぐっしょり塗れる。


まだ大学を卒業して2年しか経ってないというのにすっかり体力がなくなってしまった。

体力だけではない。

大学生だった頃は自分は何にでもなれると思っていた。

今は何もする気がおきない。


シャツのボタンをゆるめシャッターが下りているパン屋の軒下で小休止。

小腹が空いたので甘いカフェオレでも飲んで空腹を満たそうと自販機へ向かう。


電子マネーは使えないタイプだ。

塗れた手で鞄や財布を触りたくないがここはやむを得ない。


カフェオレはミルクが多ければ多いほど美味いと思っている。

ブラック、微糖、甘いコーヒー、あった。

早く買って軒下で飲もうと、カフェオレのボタンを見つめながら500円玉を投入口へ入れる。


だが雨ですべったのかコインは足元に落下した。

軽く舌打ちをしてコインを拾う。

地面にたまった水が指にまとわりついて嫌な感じだ。


「...あれ」

思わず声がこぼれた。

気を取り直して500円玉を入れたときだった。


カフェオレがない。

ミルクがたっぷり入ったカフェオレがさっきまでそこにあったはずだった。


仕事の疲れかもしれない。

月末まであまり日がないというのに営業成績は芳しくない。


この際コーヒーで妥協するかと思い、よく商品欄をみると見慣れない表示があった。


「つめた~い 120円」

ここまでなら普通だが、商品サンプルがないのである。


どうせつい先程カフェオレは諦めたところだ。

なんとなく好奇心で「つめた~い 120円」を押してみた。



その日を境に彼の生活は徐々に変わっていくことになる。

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