時間は僕の
鎌倉行程
時間は僕の
じかんはぼくのともだちだ
あるとき あかるいせかいにうまれたぼくと
きみはいっしょにうごきだした
まだ きみのことは よくしらない
時間はぼくの友だちだ。
小学校に上がって、お父さんがぼくにかいちゅう時計を買ってくれた。
はじめてきみを見ることが出来たよ。
いつもいっしょにいるんだね。ねてる時もうごいてる。
毎日朝をつれてきてくれて、きみとおいかけっこしながら学校へ行くんだ。
これからもずっといっしょだよ。
時間は僕のライバルだ。
中学校で陸上部に入部した。それから、短距離走の選手になった。
あと一歩、あと半歩のところで、いつもお前に追い抜かされる。
風を切るように走って、いつかお前を追い抜かす。
時間は僕の友達だ。
君と過ごすのが当たり前になって、あらためて君のことを意識することが減ったのかな。
君もかなり進むのに慣れたのか、知らないうちに、とても早く進んでいたんだな。
気付いたら、あっという間に高校での三年間が終わろうとしている。
修学旅行、文化祭、受験のテストも振り返る間もなく過ぎていった気がする。
遊びや好きなことに熱中している時は、君のこともちょっとだけ忘れてた。
だけど、好きな子との帰り道、手をつないだ時に少しだけゆっくり進んでくれたことを僕は気づいてた。これからも、君と僕は親友だ。
時間は僕の何だろう……。
大人になって働きだした僕は、君を口実にして「遅い」とか「やる気があるのか」と同僚に嫌なことばかり言っていた。今になって思い返してみたら、すごく嫌な奴だったんだよな。だから、あの頃は君も、少しだけ僕に意地悪な態度を取っていたんだろう。厳しい仕事の時はゆっくり進んで、休みの日や急いでいる時はものすごい早さで進んでいった。
しかし、誰よりも厳しいな、君は。同僚に対する僕より厳しいぞ。
時間は僕の家族の一員だ。
僕も歳をかさねて、愛する人と一生を過ごすことに決めた。もちろん君も一緒だ。
君と二人きりのことはなくなってきたけれど、それはそれで楽しくて幸せなんだ。
家族と一緒に過ごしていて、君に教えてもらったことがある。それは、僕には僕の君がいて、妻には妻の君がいること。
そして、子供が生まれて分かったことは、子供と君は一緒にとても早く進んでいくということだ。
僕が子供の頃もそうだったんだね。いくつになっても、君には教えてもらうことばかりだ。
時間は僕の友達だ。
妻は僕と君に見送られながら、ある朝「ごめんね」と言葉を残して、君のいない場所へ旅立っていった。大人になった子供たちは、みんな別々の場所で君と過ごしている。
また、若い頃と同じように、君と二人きりで過ごしていかなきゃいけないみたいだ。僕と一緒に歳をとったから、君も随分と遅く進むようになったな。
昔は君と競争したりもしたけど、今は杖をつく僕と同じように、夜も朝もゆっくりと連れてきてくれる。
父に買ってもらった年代物の懐中時計も、最近は止まったりすることも多くなった。
最期まで、君と僕は一緒だ。
時間はぼくの
これまでのいろいろなことを 思いだしていた
病院のベッドのまわりには 子どもたちと孫がいる
だんだんと きみのことが わからなくなってきている
夜になったと思えば いつのまにか 朝になっている
そろそろ きみとも お別れみたい
かいちゅう時計は 孫にあげたよ
ぼくのかわりに みまもっていてほしい
じかんはぼくの
じかんは ぼくの
時間は僕の 鎌倉行程 @to_da_shoten
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