第6話

本文


~現在~


「アイいるか?」


 講義中のため誰一人としていない閑散とした図書館に入るとシバはアイの名を呼んだ。 


「、、、いる、シバさっきの凄かった、」


 どこからともなく現れたアイは先ほどのシバの豹変について言った。


「俺にも何が何だかわからないんだけど、体の奥から黒い何かがうごめいて体から放出したみたいな感覚だった。」


 自身の体をに不安を感じながら訝しげに自身の体を見回した。


「、、、おそらくそれは負の魔法の黒魔法だと思う。」


「負の魔法?それに黒魔法?なんだよそれは。」


 アイの言う負の魔法、黒魔法という聞いたことのないワードにシバは首を傾げた。


 アイ曰く元々人間や魔族が魔法を使うことができるのはそれぞれ魔法を発動させるための動力源である魔力を有しているからだと言う。


 だがその魔力は人間のみが有する正の魔力と魔族のみが有する負の魔力が存在しており人間が使う魔法は正の魔法、魔族の使い魔法は負の魔法に分けられるのだ。


 さらにそれぞれの魔法で白魔法と黒魔法に系統分岐して存在しているのだとアイは説明した。


「それ、初耳なんだが、、まぁとにかく続けてくれ。」


 シバはやや話が複雑になり一度話の腰を折ったがとりあえず続けるように促した。


「、、、正の魔法も負の魔法も人間と魔族の固有の魔力によるものだから人間は正の魔法しか使えないし逆に魔族は負の魔法しか使うことができない。」


「じゃあ俺の魔力が少ないのは負の魔法に関係するのか?」


「、、、私の血を輸血したから負の魔力が体内に残り本来持っていた正の魔力の効果を妨げている。」


 正の魔力と負の魔力は互いに打ち消し合う性質があるため本来ならば外部から混入した負の魔力と体内の正の魔力が相殺し合いどちらの魔力が消えてしまったとしても体内で新たに正の魔力が生成されるため人間が負の魔力を有することはあり得ないのだ。


 しかし混入した負の魔力が異常なまでに強力なものだったらどうなるだろうか。新たに生成される正の魔力さえも消されてしまうほどの負の魔力ならば話は変わってくる。


 つまりアイの負の魔力が強力すぎてシバの正の魔力を殺しているのだ。そのためにシバの正の魔力量が極端に少ないのだ。


「いろいろ疑問に思ったんだけどアイっていったい何者なんだ?」


 話を聞いていて目の前の魔族の女が規格外に感じているシバは何気なく尋ねた。



「、、、私は魔族の王つまり魔王の後継者。」



「はあああああああああ!?ま、魔王の後継者!?」



 まさかの爆弾発言にシバは規格外にもほどがあると発狂した。


「、、、魔王は子孫を残さないで後継者に記憶を託すから先代の記憶から膨大な知識を得たし、先代から蓄積されている魔力も受け継ぐから私の負の魔力は特別。」


「な、なるほど、だから魔法の本質や種類に詳しかったんだな。じゃあ、アイって相当強いのか?」


「、、、あなたのことを馬鹿にしてた連中なら一瞬で屠ることができる。」


 アイの口調から察するに先ほどのシバへの言動に相当腹を立てている様子だった。


「、、、けれどおろかね。たかが正の魔法が並みに使えるからって自分よりも劣っていると思ったとたんにあの行動、小さい連中ね。」


 たかが外れたようにアイの口調に棘が出てきた。


「なんか、相当ご機嫌斜めですね、アイさん?」


「、、、当然、けれど特に気にはしていない、相手にする価値のない連中、シバも気にしてはだめ。」


「そうだけど俺が無能なのは事実だし、そこが変わることはないだろ?」


 シバの思っていることは正しかった。たとえいくらアイが強かったとしてもアイの存在が学院や国に知れ渡るわけにはいかないし、シバが最強の、つまり魔王の血による負の魔力を持っていたとしてもそれを使いこなすことができないからだ。


「、、、さっきの負の魔法のに関してあれは一番いけない使い方。、、、私たち魔族が息をするように負の魔法を使っているけれどあなたの場合本来使うことのできない魔法だからまず感覚を身に着けないことには何も始まらない。」


 諭すようにアイは言った。


「感覚って言ってもわからないものはどうしようもないしな、」


 困ったようにシバは手に視線を落とした。


「、、、問題ない、まずは認知するところから始めればいい。」


 アイはそう言うと手を床に向けた。すると床に魔法陣が展開され中から何やら円形の大きな水槽のような容器が出現した。


 高さは低く中に液体が入っており液体と一緒に白い紙のようなものが浮かんでいた。


「なんだこれ?」


 シバは突然現れた物を見ながらアイに聞いた。


「、、、これは昔から存在する魔法の道具。この中に一滴血を垂らすとその人の魔力量、得意な魔法の属性、苦手な魔法の属性、魔法耐性など正負によらず測定できる道具」


 そう言うとアイは自分の指先を切って自らの血液を容器内のシートの中心に一滴垂らした。


 すると中心から外側に向かってクロマトグラフィーのように赤い染みが放射状にきれいに広がっていった。やがてその染みは円形のシートギリギリまで広がり止まった。


 中心からの目盛りの数値は100を示しており赤い染みはゆがむことなくきれいな円形に広がっていた。この魔法の道具は簡単に言うとレーダーチャートのようなものであるようだ。


「、、、この染みが広がれば広がるほどその人の魔力が強いことを示す。そしてその広がり具合でどんな属性の魔法が得意か判断できる。私の場合は均一に広がっているから全ての属性の魔法を不得手なく使うことができる。」


「なるほど、これで自分の魔力を認知するってことか。次は俺がやってみるか。」


 シバもアイにならって血液を一滴中心に垂らした。だが、先ほどのアイのように染みが一気に広がるということはなかった。染みは広がってもせいぜい数値は10のラインを超えるか超えないか程度だった。


「、、、おかしい、シバの体には私と同じ魔王の血が流れているはずなのだけれど、」


 アイはこの結果にどうも納得のいかない様子だった。


「結局最強の魔王の血が流れてようが負の魔力だろうが俺は無能なんだよ。」


 シバはこの結果に相当がっかりした。負の魔法さえ認知し自由自在に扱えるようになれたらどんなにいいか、どこまでも自分は恵まれないのだと。


「、、、!」


 アイが何かを見つけたのか首を傾げてシバの測定結果をまじまじと確認したかと思うと突然目を見開いた。


「今度は何だよ、この通り俺は無能に変わりないだろ。」


 アイの様子に少し投げやりな様子でシバは尋ねた。


「、、、違う、これはシバの正の魔法の測定記録だった。測定する前の設定でそのまま人間と設定していた。だからこの記録は負の魔法に関するものではないから安心していい。」


「おい、脅かすなよ。本気で絶望しかけたぞ。」


「、、、てへっ、」


 アイは表情を変えずにごまかしたがシバは無表情で「てへっ」と言われてどう反応すればいいのかわからずとりあえずスルーした。


 そのまま無言の時間が流れアイが頬を赤くしプルプルし始めた。


「ったく、恥ずかしがるならやるなよ、見てるこっちが恥ずかしいわ。それにそう言うのはもっと笑顔で元気よくやるものだ。」


「、、、そう、そんなことより次が本命、シバの負の魔力を測定する。」


 先ほどと同様にシバがシートの中心に一滴垂らした。結果は二人の予想の斜め上を行くものだった。正の魔法の測定結果はすべて10以下のきれいな円形をしていたのに対して負の魔法の測定結果はすべて30のきれいな円形であった。再び二人の間には気まずい空気が流れた。ほどなくしてシバが口を開いた。


「なあ、これってアイに比べたら数値的にかなり低いけど他と比較したらなかなかのものなんじゃないか?学院の教官も50くらいなんだろ?教官たちの6割くらいならなかなかだろ。」


「、、、まあこの数値なら確かにクラスの連中は倒せると思うけれどまだあなたは使いこなせないから結局勝てない。せめて50以上なら魔力の威圧だけ覚えればなんとか行けると思う。」


「そうか、ん?さっきのアイや俺の正の魔法の時にはシートの裏に染みなんかなかったよな?どうして俺の負の魔法だけ裏にまでしみてるんだ?」


 シバはシートの裏にも染みが広がっていることに気が付いた。すると再び首を傾げシートの裏をアイが覗き込んだ。シートの裏を見た瞬間、普段無表情のアイの表情がわずかに興奮しているように見えた。


「、、、シバ、これはすごいこと。普通裏に染み込むことはないの。しかも表の染みは小さくて裏の染みは100を超えて裏全体まで染み渡ってる。測定不能ってこと。」


「そうなのか、なんかすごく興奮してる感じがアイから伝わってくるんだが、そんなにすごいことなのか?あんまり実感がないんだよな。」


「、、、とてもすごいこと、裏にまで染み込むなんて先代の魔王ですらいなかった。けれど言い伝えではそういう者が絶対にいると記されていた。だからシバはすごい。今すぐに習得しないとだめ。」


「威圧を覚えるってことか?」


「、、、違う、シバの場合表の魔力表示が30だから普段はその程度の魔力の威圧になるからあまり効果はないと思ったほうがいい。あなたの本当の魔力は私以上だけれどシバの本来の魔力の大きさはほとんどの相手には魔力感知されない。シートの裏に染み込んだというのはそういうことを物語っている。」


「アイでもやっぱりわからないものなのか?」


「、、、言われなければわからないけど今は魔力感知を研ぎ澄ませばわからなくはない。けれど正確には無理、大きすぎる。」


「なるほど、なら俺の戦闘スタイルは奇襲で一発勝負ってところかな。」


「、、、それもいいかもしれないけれどクラスの連中には通用してもその先は通用しなくなる。だからまず30の負の魔力を有効に使える戦い方、正の魔法よりよっぽど強いから。」


「有効活用って言ってもどうすればいいんだ?」


「、、、それは自分で見つけなければ意味がない。ヒントは私が教えた武術を使うこと。」


 そう言うとアイは魔導書の姿に変わった。それと同時に教官が慌てて図書館にやってきた。



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