第1章 出会い The beginning for him and her

1積目 井藤宗治

 キーンコーンカーンコーン。

 4時間目の授業の終わりを告げる鐘の音を三田木原高校2年3組の井藤宗治いとうそうじは夢見心地で聞いていた。


「きりーつ、きをつけー」


 そんな気の抜けた日直の号令に合わせて、やはりといつもの流れをこなした彼は着席の号令に合わせて腰を下ろし、大きな欠伸を一つした。

 12月1日。しんしんと雪が降り、空気が冷たい日のことである。教室には暖房が効いているが、窓際の席に座る彼は窓を通して外気の冷たさを感じている。だが、それでも眠気は晴れなかったらしい。今日の午前中はずっと授業をすっぽかして居眠りしていた。

 そんな井藤に彼の前に座る男子生徒がニヤニヤ笑いで声を掛ける。


「おいおい、宗治~。タクセンがすんごい顔でお前のことを見ていたぜ」


 若干茶色に染めた髪を刈り上げた野性味あふれるその男子生徒は刈谷吾郎かりやごろうと言った。井藤の数少ない親友で、なんだかんだ中学校からの付き合いである。

 そしてタクセンとは4時間目の英語の授業を担当している教師、拓沢先生のことだった。彼の言から考えるに、居眠りしていた井藤を快く思わなかったってことだろう。他の教師は成績優秀な井藤の居眠りを咎めることはあまりないが、しかし拓沢先生だけはいつまでも彼の居眠りを無視しないでいる。

 とはいえ、井藤は拓沢先生がどんな思いをしてようが知ったこっちゃなかった。眠いものは眠い。だから寝る。ただそれだけに過ぎないのだから。


「また今日は一段とお眠だな」

「うるせー、エアコンが効き過ぎなんだよ、エアコンが」

「にしたって、午前中の授業、全部居眠ってんのはやべーだろ。なんだ?爆乳のグラビアでも見てたのか?」

「違う違う。あと太陽が顔を見せてる時間帯に――いや、曇り空だから見せてはいないけども――妙なことを言うんじゃないよ。でも、まぁ、ちょっと野暮用だ」

「お前、いっつもそう言うよな。一体何してんだよ」

「いちいちこっちがぼかしてんだから、追及するな」

「それを分かった上で、聞いてるんだけど?」


 だったらなおさら質が悪い。井藤は刈谷の頭を戯けた様子で引っ叩いた。

 井藤が昼間に眠気に襲われてしまうのはきちんとした理由がある。それでもその理由を他言することは許されていないし、したくない。

 だって言えるわけがないだろう。街を危機から守るために、夜な夜な悪霊と戦っているなんて。

 

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