凍えた蕾がほころぶころへ~Queen of Avaranch~
御都米ライハ
グランドオープニング
初雪が降った夜に
頬に触れた冷たい感触に思わず夜空を彼は見上げる。
しんしんと雪が降っていた。こんな世間から忘れ去られたような裏路地にも平等に。
今年の初雪だった。今日の日付は11月30日。季節を月で区切れば、11月30日はちょうど秋の終わりの日だ。この雪は冬が来るのを待っていられなかったのだろう。だから冬を始めるように、最後の秋にやってきたのだ。
人間の世界で何が起ころうとも、季節は正しく巡ってくる。いつだって、どんな時だって。時間の観念を持たない季節は4つの季節を同じ順序で延々と繰り返しているだけでしかない。さながら同じ曲を繰り返すレコードのように。
だから、延々を謳う新たな季節の始まりを告げる雪が降る空を見上げ、彼は思う。
「何をして、いるんだろうな」
迷いがあった。そして同時に諦観も。現状への疑問と掲げた理想とどうしようもない現実の板挟みで身動きの取れない彼は今日も昨日を繰り返す。故に、結局迷いはそのままに、何も変われないまま、変えられないまま、今日はまた明日へ受け継がれていくのだ。
時々、理想を夢想する。けれどもやはりそれは夢想でしかなく、苦しみに喘ぐ彼を救い出してくれるものでもなかった。
「何をして、るんだろうなぁ…」
再び思いを吐露する。本当に一体何をしているのだろうか。疑問があって、理想があって、しかしながら現実という大きな壁が立ち塞がる。つまるところ、それは何もしていないのと同義で、それが更に彼の胸を締め付けるのだった。
いつこの苦しもは終わるのだろうか。分からない。きっとこの身が滅びるまでだろうと彼は爆然とそう思っている。
あるいは理想も疑問を置き捨てて、延々と日々を繰り返すだけの存在になり果てれば楽に生きられるのかもしれないけれど。
はらり、と雪が曇り夜空を見上げる彼の頬に落ちる。体温で溶けた雪は彼の頬を伝い、そして首筋へと伝った。雪が残した水跡はさながら涙の跡のようだった。
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