炎の絵

白鷺人和

第1話

眼前に飾られてる絵。

描かれているのは、私が描いた炎の絵。

私の後ろに並ぶ者達は、感嘆の声を漏らしたり、具体的ないい所を述べたりしている。

だがこいつらは私の絵を何もわかっていない。分かろうともしていない。

私にとってはこんなもの炎じゃない。

あの日の炎を表すには、こんなのじゃ……



ーーーーーー

「南條先生!?」

私はその声で私は我に返った。

「南條先生、大丈夫ですか?」

「大丈夫、ごめんなさい少し呆けていたわ」

運転席の黒いスーツを着たこのスリムな男性は、

私のマネージャーをしてくれている人で、名前を佐藤圭さんという人だ。

私のスケジュールを、絵にしか興味のない私の代わりに管理してくれている。

「この後雑誌の取材があるので、それっぽい言葉考えといてくださいね」

佐藤さんが車の運転をしながら次のスケジュールについて説明を出す。

私は高校生で画家をしている。

それを面白く思った大人達が私を祭り上げているのだ。

炎をばかり書いているから、炎の画家と呼ぶ者もいれば、いつも無表情な為氷の画家と呼ぶものもいる。

「先生!着きましたよ!」

そう言われて窓の外を見ると、某出版社の看板を掲げた大きなビルがあった。

佐藤さんがドアを開け、私はゆっくりと外に出た。

私は大きい溜息をつき、

「……面倒臭い」

と言った。

「まだ言ってるんですか!?自宅でそんなこと言って出てこなかったから遅刻しそうなんですから!早く行きますよ!」

佐藤さんが私の手を引き、一緒にビル内に入った。

そのままエレベーターに乗り、目的地の5階に着いた。

「スミマセン!遅れました!」

会議室Aと書かれた部屋のドアを開けると同時に佐藤さんは言った。

「いえいえ、お呼びしたのはこちらの方ですから!ささ、こちらへ」

そう言われて私達は、記者の机を挟んだ向かい側にあるパイプ椅子に座った。

「では取材を始めたいと思います、では初めにー」

そこから彼らは、私に質問を始めた。

何百回とされてきた質問に、私はテンプレートで答えた。

そんな、調べれば他の雑誌にも乗っている質問をしている記者たちを見ながら、私も同じような事を考えるのだ。

この人達は、どういう心境で私に話を聞いているのだろう?

私はテンプレート的答えを返しつつ、彼らの表情や仕草から感情を読み取ろうとしていた。



ーーーーーーーー

「ではこれにて終了です。有難うございました!」

記者さんが締め括りの言葉を発した。

「では私はこれで」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」

我先にと帰ろうとする私を、佐藤さんが追いかける。いつもの構図だ。

私は車に乗り、佐藤さんも運転席に座り、

私の自宅兼作業場へと車を走らせた。

そして、佐藤さんがバックミラー越しに私をちらりと見て、

「今回はどうでした?記者さんたちの感情を理解できました?」

と言った。これもいつもの事だ。

「……いや、全然」

今回も、彼らの感情を理解できなかった。

というのも、私は感情を理解する為にこういった仕事を受けているのだ。

私の感情は、ある日の事件から薄いのだ。無いわけではないが、限りなく薄い。

だが、私は炎の絵によってあの日の感情を表現したい。これを実現する為に、佐藤さんが提案してくれたのが、先程の記者たちのような他人と関わることによって、感情を理解していく、というものだ。

それが無ければ、あんな退屈な仕事はしない。

だがまだ、私には感情が理解出来ない。

あの日に失った感情たちの事は。

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炎の絵 白鷺人和 @taketowa

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