第2話 ありえない、が、ありえる世界?
『さて、説明してもらおうか?』
「…………………………(困)」
あの後、どうやらレベッカ本人の護衛役だったらしい老騎士、ボルト・エアネストは、レベッカが拉致られた責任を取ると言って、持っていた大剣で自ら果てようとするのを、レベッカ(中身別人)が必死に止めるのに数分を要した。
さらに、4人の視線のプレッシャーを感じながら、レベッカの霊体は本体に戻り、アイ達4人の霊体は押し出されるように、再び自由になった。
そして新たな事実として、自由となったアイ達はこの世界のレベッカの姿を見ることが出来たのだが、彼女のここでの姿はこれまで見てきたラフな姿ではなく、純白のローブを纏った神聖な聖職者であったのである。
しかもそのローブも、金糸による刺繍が施された、見るからに高価な代物であることが伺えるし、騎士の護衛付きとなれば、思った以上に身分が高いのかもしれない。 まあ、だからといって、アイ達には関係のないコトであって……………、
『霊体だと姿を変えられるのか?』
「ええ……………まあ…………」
『何で目を背ける?』
「あは………………あはははは(焦)」
『…………………………』×4
「ううぅ、そんな目で見ないで下さいよぉ、騙す気は無かったんですよぉ〜、仕方なかったんですよぉぉぉ(涙目)」
『返事次第では、タダでは済まさないぞ』
霊体なのにどうやっているのだろう、指をポキポキ鳴らしながら凄むアマンダ。
ノーマンもヴォルも、どこか冷たい視線を向ける中、アイだけは別の部分に注目していた。 霊体は衣類だけではなく体型や年齢も変えられるのだろう、今まで10歳程の幼女と思っていたが、実態のレベッカは、見た感じ15歳前後に見える。
先ほどは襲われたとはいえ、脱がされたわけではないので裸体は拝めなかったが、バストサイズは…………………、
『レベッカちゃん、ホントの歳はいくつ?』
「はあ、16歳になります…………………………」
『ってコトは、ほとんどタメ、だよね?』
「そ、そういうコトになりますね」
アイはあらためて、ローブの上からレベッカの胸をマジマジと見つめ、
『っしゃぁぁぁぁっ!!』
「何でそんなに嬉しそうなんですかぁっ?!」
ガッツポーズのアイに、レベッカは涙目で抗議の声をあげた。
「司祭様?」
突如鳴き声で叫ぶレベッカに、ボルトが心配そうに問いかけた。
「やはり先ほどの事を…………、この度の我が失態、この命をもって償いをぉぉぉっ!!」
再び大剣の刀身を首に添えて叫ぶ彼を、
「わーっ、待った待った待ったぁぁぁぁっ!!」
再び宥めるのに一時間ほどの時間を要した。
『あ〜、メンドくせぇ…………………』
何だかんだで無駄に時間を消費してしまったが、再びどこかに向かって歩き出すレベッカとボルトの2人と霊体4人。 未舗装ながら広く整備された道は、少し先に見える大きな街に繋がる街道のようだった。
『我らをゼロ次元に集めたのは、君なのだろう?』
「…………………はい」
『え、そーなの???』
その可能性を今まで考えはしなかったのだろう、アマンダが疑問の声をあげた。
『ゼロ次元に関しては、レベッカの方が熟知している。 我らが知らない何らかの方法で、意図的に特定の相手の霊体をゼロ次元に引き込んだのだろう』
レベッカの向かう次の街、「シアー」へと向かう道すがら、ノーマン達はレベッカに事情説明を促した。 そのすぐ後ろでは、ヴォルとアマンダが怖い目で睨みつけている。 アイは…………、まあ、何とも思っていないのだろう、異世界の風景を堪能しているのか、辺りを興味深げに見渡している。
「この世界を、というより…………そうですね、隠していてもすぐに事情は分かってしまうでしょうから、正直に言います。 私は命を狙われています。 皆さんには私を助けてもらいたいんです」
『そいつなら、すでに金○破壊して退治済みだろ』
『アマンダさん、お下品!』
『蹴ったのは、お前だろ』
『正当防衛です』
『まあまあ、それで? さっきの暴漢も何者なんだ?』
「あれはただの刺客か、ホントにただの暴漢の変態かもしれませんが、前者の場合、彼の背後の何者かが、そう仕向けた可能性があります。 今まで何度かそういった事がありました。 ですから助けが欲しいのです。 そしてそれは、この世界のタメでもあるのです」
『自己評価がずいぶんと高いな? 確かにその姿から見て、この世界では特別な立場なのだろうが、いったい君は何者なんだ?』
「この世界において、前にも言いましたが、知性神を崇拝する『アルベル教』という宗教が盛んで、私はアルベル教の司祭の役職に就いています」
『君のような若い者でも就けるのか? 確かこの世界でその宗教はかなり大規模なモノだったハズだが?』
「私は特別でした。 自分で言うのもなんですが……………アルベル教始まって以来の…………天才司祭と(小声)」
『自分で言って恥ずかしくないか?』
「だから言いたくなかったんですよぉ」
『ふむ、まあいい。 ようするに教団内での権力抗争のようなものか』
「はい。 それに数週間前に前の大司教が亡くなられて、近々、後継者を決める選挙があるのです」
こちらの世界でもカトリック教会において、教皇を枢機卿の投票で決めるコンクラーヴェというものがある。 この世界において、それに当たる選挙が行われるということなのだろう、そっち方面では素人であるノーマン達にはイマイチ実感のわかない、浮世離れした話に聞こえた。
『それと君が何の……………まさか、君もその後継者の候補に?』
「まあ、そういう事です」
『何とも、とんでもないコトに巻き込まれたものだ』
『ああ、だが、彼女の話っぷりからして、冗談とも嘘とも思えないが』
どうしたものかと、ノーマンとヴォルが困惑していると、途中から話が難しそうだと思い、退屈になったアイが少し離れた道路脇の茂みをうろついていると、
『ねー、ねー、コレ、何だろぉ?』
と、何かを見つけて間の抜けた声でノーマン達に声をかけた。
『ん、何か見つけたか?』
レベッカからの面倒な頼まれ事に少々戸惑っていたところ、そのモヤモヤ感をリセットしたかった事もあってか、アイの声が今は助け舟のように聞こえる。
どうせくだらない事だろうと思いつつ、アイが見つけた何かを見に行くと、
『足跡……………か?』
そこには動物のモノと思われる足跡があったのだが、異様に大きい。 しかし素人目にも像の足跡のようには見えなかった。
少し左右に広く、指と爪の跡も残っている。
知る限り、こんな足跡の動物は記憶になかった。
こんな足跡を残す生物は、アマンダの世界ならドラゴンか何かなのだろうが、そんな架空の世界の生物が実在するわけがない。
こっちの世界特有の大型生物だろうと思われたが、
「ああ、それですか………………」
アイ達の様子が気になって見にきたレベッカが、顔を覗かせた。
「それ多分、野良トリケラトプスのモノですね」
『…………………………?』×3
トリケラトプスを知らないアマンダ以外の3人の目が点になった。
トリケラトプス。 6000万年以上前に絶滅した草食恐竜であるが、しばらく考えてからアイは、目を輝かせて辺りを見渡し、
『え、え、ジュラシックパーク? 近くにスピ◯バーグ監督いるかな?』
常識人のノーマンとヴォルはこめかみを押さえ、
『まだ、我らを騙そうとしているのか?』
『何を隠し立てしている?』
凄む2人の軍人の迫力に、さすがの
「ほほほ、ホントですよぉ。 ほ、ほらぁ…………………」
少し離れた森の向こうを指差すと、子供の頃に図鑑で見たような生物の顔が、木々の向こうにそれよりも高く首をもたげた。
『っ?!』×4
ブラキオサウルス。 トリケラトプスよりもっと古いジュラ紀に生息していた草食恐竜ではあるが、いや、そんな事よりも……………………、
『な、な、な、何故あんなモノが……………いくら何でもありえない?』
『この世界は、我らの世界とどんなに違う歴史を辿ってきたんだ?』
レベッカの姿を見る限り、この世界の住人は自分たちと同じ生物学的特徴がある。 つまり生物としての進化はほとんど同じであろう。 ならばこの世界のこの地球も、星として同じような歴史があるハズなのである。
この世界での大昔に恐竜が絶滅しなかった、としても、時代の変化に応じてそれに対応した進化をして、もっと違う姿になっているに違いない。
しかし目の前にいる恐竜は、まるで博物館や映画で見るような太古の姿のままなのだ。 この世界はいったい………………、
『この世界でいったい、何があったというのだ?』
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