第11話 超兵器とヒーロー

 各艦主砲照準上、クロスゲージで捕捉された、まもなく超新星爆発するであろうかつて赤色巨星であったその星は、見た目にもすっかり小さくなっていた。

気のせいか、小さくなるにつれて、縮退する速度が早くなってきているように見える。

爆発した際の圧倒的な衝撃波に対し、無意味かもと思われる迎撃のための主砲のトリガーにかかる指も、汗ばみながら何故か震えはなかった。

少し前まで直径12億㎞もあった星も、もう直径数百㎞程になり、この距離ではすでに照準器がないと、肉眼では見えない小ささになっている。

見えないが、一つの恒星系を壊滅できるだけのエネルギー量を秘めているのだ。

もしもコレを兵器に転用できるとしたら、今までのいかなるSF映画や、アニメの中でも、かつてないほどの超兵器になることは間違いないだろう。

1980年頃に放映された某アニメの劇場版にも、超新星をエネルギーにしたビーム兵器もあったが、それでも超新星のエネルギーの極々一部しか使えなかった。

Qは見る見る縮退していく星を、すぐ近くの宇宙空間を漂いながら見ていた。

「素晴らしい!! コレを自身のエネルギーに出来れば、何兆年、いや、何京、何がい(兆の1億倍)年でも使いきれないな」

過去のデータから推察するに、おそらく後2〜3分で爆発するはずである。

Qは星の方に掌をかざし、擬似空間のフィールドを展開させた。

「擬似空間の時間軸を固定すれば、爆発前の状態で保存可能。 どうせ消えて無くなる星だ、他の世界で手に入れた武器同様、この星も戴いていくとしよう」


 そしてちょうどその頃、アスペンケイドの展望室のベンチの上では、

「ZZZZZZZZZZ…………………ふがっ!!」

すっかり熟睡していたダイアナであったが、気配に目を覚ました。

「あ〜もーっ、せっかくパフェ食べ放題の夢を見てたのになぁ〜(怒)」

恨めしそうに、もう見えない距離ながら、爆発前の超新星の方に視線を向けて、

「ん〜、そろそろかな。 頼んだよ、ヒーロー」

と、緊張感もなく言った。


 しかしその頃、全速力で宙域を離脱中の各艦では、

「ま、まだか……………………?」

近づきつつある超新星爆発という、絶望的な危機を前に、各艦の乗員全員が、その瞬間を息を飲んで待っていた。

助かる確率は、ほぼゼロ。 軍に入った段階で、いつでも死を覚悟できる心構えでいた彼らではあったが、いざ、その状況に至っては、万が一の可能性を無意識に期待してしまう。

距離があるため、確実に数十分のタイムラグは発生するが、各種観測機器で、もうすぐ爆発する赤色巨星だったその星の観測は続けているが、今までの観測データが存在しないため、その正確な兆候さえ把握できはしない。

そうこうしている間に、予想していたタイムリミットを過ぎ、数隻の艦がワープのためのエネルギー充填が出来そうになりかけた頃、

「し、消失………………?」

「どうした?」

モーゼスの問いに、電探士は困惑の顔で答えた。

「その、超新星が……………消失しました」

「何だって???」

「さ、再確認します………………やはり、レーダーにも光学モニターにも、もう何の反応もありません」

「故障じゃないのか? 他の艦は?」

「今、問い合わせ中………………はい、いえ……………や、やはり」

「?」

「他の艦でも同様の報告あり、やはり超新星が忽然と消失したと………………」

「そんなバカなっ?」

予想外の展開に、各艦、超新星の危機とは別の意味でパニックとなった。

それは助けられた側のノーマン達、アスペンケイド乗員達も同じで、

「どういうことだ? こんなこと、ありえない?」

と、宇宙工学顧問であるトビーに目で問いかけるが、専門家だからこそ、この予想外の出来事に、ワケが分からず、首を振って答えるしかなかった。

専門外どころか、部外者であり事態に巻き込まれたアイ達霊体4人も、呆気にとられている。

「超新星そのものを間近で観測した事例は存在しない。 何が起こったのか、再確認を終えるまで気を緩めるなっ!! 各艦にも通達、緊急離脱は継続せよと」

「はつ」

と、そこへ寝覚めの悪い顔でダイアナが、アクビをしながらブリッジに戻ってきた。 彼女はそのままノーマンのそばまで来ると、

「ん〜、なになにぃ? 随分と騒がしいね?」

と、何事もなかったかのように平然と聞いた。

「少尉、今までどこへ?」

「寝てたっ!」

あっけらかんと言う彼女の態度に、ノーマンは呆れ顔で、

「この非常時に………………」

言いかけたところで、

「え、海賊討伐前にトビーに言伝したのに? 心配いらないから慌てないでって?」

「?」

『どういうことだ?』

ノーマンの後ろからヴォルも問いかける。

霊体の彼の声など他の乗員には聞こえないだろうに、無意識に小声で。

「どういう、って、Qが超新星を封印したんだよ。 トビーにQのコト言っても信じてもらえないだろうから、言わなかったけど」

「な、何故ソレを早く……………」

『ちょ、待ってください』

何かに気づいてレベッカが待ったをかけた。

『何でその……………Q……………ですか? そのQが助けてくれるって分かったんです? 討伐前だとまだ赤色巨星が爆発するかどうかも分からなかったハズじゃ?』

「だから感だって」

『イヤイヤ、感って、もはやそれ、予言の域だから………………』

『ニ◯ータイプは、こっちのお姉さんの方だったの?』

アイの意味不明発言を無視し、さすがのノーマンも諦めたように、

「ああ、そうかそうか。 感で分かったのなら、それならいい」

『?』×4

「彼女は昔からこうだった。 もはや説明のできないコトを普通にするのがあたりまえとなってしまっている。 私も少々感覚が麻痺していたようだ」

つまり彼女は、こういった女なのである。 ダイアナの行う事象を、論理で説明する事は不可能と思った方がいい、そういうミステリアスな女なのだ。

今まで何度もその謎を調べもしたが、どうやっても分からないままで、その謎も秘密も、ダイアナ当人にも分からない………………らしい?

もしかしたらアイの言う、ニュー何とか、とかいう新人類なのかもしれない。

『まあ、それはともかくとして、それよりもQの手に、とてつもないエネルギー源が渡ってしまったんだぞ。 ヤツがその気になれば、太陽系の一つや二つ、消し去るくらいのコトだって出来るのではないのか?』

「ん〜、その心配はないんじゃないかな?」

ヴォルの問いに、ダイアナは他人事のように答える。

この余裕も「感」なのかもしれないが、その表情は何故か信じられる気がした。

「Qも含めてみんな、超新星をなめすぎ」

ダイアナは肩をすくめて言った。

『?』×5


 ダイアナ達がいるその場所から、およそ2万光年ほど離れた宇宙域、四方数千光年にわたって星一つ存在しないその場所で、起こるわけのない超新星爆発があった。 もっとも、宇宙船でその宙域に行って、偶然それを発見でもしない限りは、それを地球で観測できるのは、何万年も先になるだろうが。

「この結果も、彼女は見越していたのだろうな………………。 時間を制御した空間だったとはいえ、星全体を一気に封印できたわけではない。 わずかな綻びがあったのだろう。 いや、あれほどの巨星が縮退したのだから質量も相当なモノだったはず。 それゆえの超重力が次元レベルで封鎖空間を破壊したのかもしれない。 外の空間に破棄しなければ、私自身を巻き込んで爆発していただろう。 やれやれ、やはり宇宙は恐ろしくも……………………素晴らしい」

遥か遠くの宇宙空間を漂いながら、しぶしぶ捨てた超新星を見てQは言ったが、表情がないにも関わらず、どこか楽しそうであった。


「ところで………………………」

『?』

「そろそろじゃありませんか?」

『いったい何が、そろそろなのだ?』

ダイアナの言葉に、一同は訝しげな顔をした刹那、自身の身体に戻っていたノーマンはもちろん、アイ達4人の魂まで、突如空いた空間の穴に、再び吸い込まれた。

『ま、またかぁぁぁ』

『何かもう、お約束みたいな展開なんですけどぉぉぉっ!!』

それぞれ空間の穴に吸い込まれながらも、意識が暗転しそうになるのを何とか堪え、気力を保ちながらダイアナの方を見ると、彼女は無関心そうな顔でヒラヒラと、ハンカチを振って見送っていた。

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