第8話 超電磁砲すないぱー
「ミサイル確認…………来ます」
「迎撃用意!」
『………………………………………』
『………………………………………』
『………………………………………』
『な、なかなか来ませんね』
『距離があるからな。 普通に数分かかるだろう』
しばらくしてブリッジ内に緊迫した声が響く。
「敵ミサイルの軌道確認。 え、と、本艦の後方50㎞を通過する模様」
『下手くそかっ!!』
それに対し、あまりに的外れな敵の攻撃に、素人のアイが呆れ顔で言った。
通常、ミサイルは標的を自動で追尾するものだが、こちらがあまりに高速で移動しているため、近くまで来てロストしてしまったのだろうが。
『まあ、こうなるようになっているんだ』
照準を微調整するジョイスティックを操作し、ノーマンは目の前のモニターに小さく写った敵艦を確認して、
『退役艦が盗まれ悪用される事件は前にもあってな、各種火器管制制御装置に細工をしてから廃棄しているんだ。 建造される段階でも、複数のパーツに量産複製されない単独設計の機器が使われている。 つまり………………』
モニターで照準をロックし、
『ヤツらはマニュアルで撃つしかない。 さっきはワープアウト後の低速航行だったから、まぐれで当たってしまったがな』
ジョイスティックの引金を引いた。
- ヴァシュッ -
超電磁加速による、イマイチ迫力のない発射音を残し、耐熱素材の弾丸が撃ち出される。
真空無重力の宇宙なら実体弾の射程距離はほぼ無限ではあるが、それでも相手との距離があるため、命中するには多少時間はかかってしまう。
『しかし正規の軍艦ならば、火器管制制御装置による弾道が補正され、同じマニュアル射撃の援護射撃用超電磁砲でも段違いの命中率を発揮する』
「超電磁砲弾、敵艦後方120m通過」
『………………………………………』
『………………………………………』
『ま、まあ敵に比べればかなり正確ではあるな』
思わずアイも、『下手くそかっ!!』ともう一度言いかけたが、さすがに口ごもってしまった。
しかしノーマンは気にする様子もなく、再び超電磁砲の引金を引いた。
「超電磁砲弾、敵艦前方80m通過」
『少し精度が上がったか?』
「敵艦、荷電粒子砲接近、本艦前方25㎞通過予想。 続いて第2波、本艦後方40㎞通過予想」
『わずかな誤差も、これだけの距離が離れるとこの様だ。 お互い高速で動いている上に、例の赤色巨星の重力と放射線の影響もあってな』
- ヴァシュッ -
超電磁砲の3発目を撃ち、
「超電磁砲弾、敵艦前方46m通過」
その報告を聞きノーマンは引金から手を離した。
そしてゆっくり、後ろで様子を見ていたアマンダの方に振り返り、
『使い方と弾道のクセは分かったか?』
言われたアマンダは今までで一番の笑みを見せ、
『誰に言ってる? 私は
ノーマンと霊体を入れ替え憑依し、ノーマンに変わって引金に指を添えた。
同時、ブリッジ内に警報が鳴り響いた。
「敵艦、ミサイル多数発射、推定5発は我艦に命中する可能性大!!」
『ヤケになって乱射してきたか』
『ああ、だが問題ない』
アマンダが憑依したノーマンの目つきは、すでに別人となっている。
軽くジョイスティックを操作し、モニターに迫り来るミサイルを認識、素早く照準を合わせつつ、距離と動き、弾道を考慮してから、
- ヴァシュッ ヴァシュッ ヴァシュッ -
命中するか確認せず、すぐにスティック操作で次の標的を見つけ、
- ヴァシュッ ヴァシュッ -
直後、アスペンケイドのすぐ近くで迎撃の閃光が5つ灯った。
「ぜ、全弾迎撃!!」
「えっ?」
「まさか……………?」
「い、いったいどういうこと……?」
ブリッジ内スタッフの間で騒めく声が上がり、全員の視線が中身アマンダのノーマンに集中した。
「少尉、ち、ちょっといいですか?」
艦内中央通路を、外の騒ぎを気にする様子もなく、階下の層に繋がるエレベーターに向かうダイアナを、トビー軍曹が呼び止めた。
彼は思いつめたような、それでいて緊張したような表情をしている。
「ナニナニィ〜? あ〜、もしかしてデートのお誘いかなぁ〜?」
ダイアナはいつものようにからかうような言い方で問い返すが、
「は、はあ、そ、その、出来れば、お付き合いをお願いしたく……………」
「へっ?!」
らしくもなく、真顔で敬礼しながらプロポーズする彼に、ダイアナは見る見る赤面していった。
「副艦長から以前の少尉の事を聞きました。 この騒ぎが収まったら是非とも自分との交際を考えて……………ど、どうかしました?」
「あ、いや、え、そ、その、え、ええ〜とぉ……………………………」
こういった経験は初めてなのだろう、Qと対峙していたあの勇ましさはどこへやら、乙女の恥じらいに彼女は、平静を装うコトさえできない。
「わ、わ、わ、分かった……………分かったから、え、と、そ、その話はまた後で、ね、ね。 い、今、ち、ちょっと用事があるから、ね……………」
しどろもどろに答え、足をもつれさせながらもエレベーターに転がり込み、下の階のボタンを震える指で押した。
ゆっくり閉まるドアの速度が、いつもより遅く感じる。
(早く、早く閉まってぇぇぇーっ!!)
恥ずかしさを隠しながら、心の中で絶叫する。
が、閉まる直前で、思い出したように閉まるドアを止め、
「か、か、艦長に伝言お願い」
「は……………はい?」
「後の心配はいらないから。 何があっても慌てないで、と」
「り、了解しました………………?」
彼の返事を聞くと、恥ずかしさを隠すようにダイアナは、ドアの「close」ボタンを連打した。
「メインモニター、回復。 敵艦を映します」
ブリッジ上方の大型モニターに、元宇宙軍のバンディット級戦艦を改造した海賊船が映し出された。 アマンダが憑依したノーマンが操作している超電磁砲は、元々が近距離での砲撃を目的としたものなので、光学式照準器しか装備されておらず、メインカメラはリンクしていないので拡大表示されない。 そのため、まだアマンダの前のモニターに映った敵艦は、まだ小さな点にしか見えない。
「敵艦加速、接近してきます」
『間合いを詰めて火器の命中率を上げるつもりなんだろう、単純だが正しい判断だ。 だが、まだ奴らはこちらの本領を知らない。 アマンダ、敵艦の足を止められるか?』
『エンジンとかいう、後ろから火を噴いてる所を狙えばいいんだろ? 任せろ』
『ええっ? だってまだ小さくしか見えませんよ?』
戦闘に関しては素人ではあるが、的が小さければ狙いにくいということくらいは、アイでも分かる。 しかしノーマンの中のアマンダは余裕を見せていた。
『何度も言わせるなよ。 私は目はいいんだ』
そうは言われたものの、とても信じられないアイとレベッカは、ブリッジの大型モニターの中の敵艦を見上げた。
双方の巡航速度は大差なく並走している状態であったが、距離を縮めるために、こちらの速度を考慮して機首を斜めに向けている。
そのため、こちらに向かって来てはいるが、今の位置からはかろうじて敵艦後部が見える状態だった。
『あまり近づかれては、かえって後ろを狙いにくいな。 やはり撃つのは今しかない』
言うと、アマンダは躊躇いを見せず照準を操作、距離と目標到達時間からくる弾道誤差を直感で合わせ、引金を引く。
後ろで見ていたアイ達には、敵艦はまだ点にしか見えないので、どこを狙ったのかさえ分からなかったが、
「超電磁砲、敵艦エンジンを直撃」
それを聞いてアイが驚嘆と尊敬の眼差しで、アマンダを見つめた。
『ア、アマンダさんってニュー◯イプだったんですかぁ?』
『何のコトだが分からないけど、それより念には念を入れて』
続けざまに超電磁砲を連射、全弾が敵艦のエンジンと主砲を直撃した。
「て、敵艦沈黙……………、いえ、向こうも対空火器を撃って来ました」
『じゃあ、次はその砲を……………』
『待て』
敵艦の対空砲を狙撃しようとしたアマンダを、霊体のノーマンが止めた。
ノーマンはそのまま自分の身体に戻り、引金から指を離した。
『その必要はなさそうだ。 ホンモノの戦神のお出ましだ』
ブリッジに警告音が響く。 メインモニターに艦の全体図が映し出され、艦後方下部のハッチが開いていくのが分かった。
「ウェザビー少尉の突撃艇、発艦許可を求めています。 よろしいので?」
「構わんよ。 後は少尉に任せよう」
アスペンケイドから発艦したダイアナの突撃艇、ファイヤーブレード。
鋭角に尖った重装甲の機首から、機体後ろ半分が高出力エンジンとなる、居住性を無視したデザインは、大きな
機体色も白を基調に赤、青のラインが入ったカラーリングは、名車CBRファイヤーブレード初期モデルを彷彿とさせるが、やはりアイの目には、どこか名作アニメの主役機に見えた。
「わーーーーーーーーっ、告られた告られた告られた、きゃぁーっ!!」
まさかの告白に、もはや冷静さを失い、ファイヤーブレードの操縦が覚束ない状態で、注意しないと目標を見失い、視界の端に見える赤色巨星の方に飛んで行ってしまいそうだ。
「わーわーわー、どどどどどどーしよ、どーしよ、どーしよぉぉぉ♡ えっと、えっと、ま、まずは部屋に戻ったらおニューのパンツに替えて…………って、い、いきなり何をするつもり? いくらなんでもすぐに身体を求めてくるわけないじゃん。 そ、そーだよ。 トビーはそんな……………いやいやいや、男はみんな下半身は別人格だった、ママも言ってたしぃ…………………、で、でも彼に限ってそんな……………イヤー、私の貞操のピンチ! パパ、ママ、あなた達の娘は今夜、大人の女になります。 サヨナラ私のバージン」
ナゼかピンク色の想像ばかり膨れ上がっていると、コックピットの通信コールが鳴った。 相手は主計科の料理長ウェッソン中尉だった。
《聞いたぜ聞いたぜ少尉ぃ。 軍曹に告られたんだってぇ?》
「どどど、どーしてそれを??????」
《主計科の情報網をなめてもらっちゃ困るぜ。 管理しているのは乗員の食の好みだけじゃあないんだ、こんな面白い情報、すぐにオレの耳に入ってくるよ》
「ひぃーっ、は、恥ずかしいよぉぉっ!!」
恥ずかしさで真っ赤になった顔を両手で覆い、ダイアナは狭いコックピットの中を転がり回った。
《とりあえずは応援してるぜ。 今回は上手くいくといいな》
「こここ、今回はだけ、は余計ですっ(怒)」
《まあまあ落ち着けよ。 そ〜だ、前祝いに今日の夕飯には、少尉だけデザートにプリンを付けよう。 上にクリームとチェリーが乗ったヤツな》
「プププ、プリンーッ(嬉)」
ウェッソンのその一言に、ダイアナの表情が変わった。
スイーツはLOVEに勝るのである。
脳裏でプルプル震える黄色いデザートが、色恋沙汰の幻惑を打ち消した。
「プリンッ、プリンッ、プリーンッ!!!!!!!!」
操縦桿を握り直し、機体の姿勢を立て直して敵艦を見つけるや、ファイヤーブレードは一気に最大戦速に加速すると、トリコロールカラーの弾丸と化して海賊船の中央を貫通、それを数回繰り返すと、機首を艦橋近くに突き刺して、ダイアナは単身、敵艦内部に乗り込んで行った。
一方、その様子をアスペンケイドで見ていたヴォルは、
『応援はいいのか? 相手も大勢で武装しているのだろう?』
と、当然の質問をノーマンにした。
横で見ていたアイやアマンダ、レベッカも同じ気持ちだったのだが、
「その必要はないよ。 むしろ応援部隊は邪魔になる」
『?』×3
ノーマンはファイヤーブレードのマイクにアクセスし、敵艦内の音声を拾った。
艦長席のヘッドフォンのスピーカーで、海賊船での攻防の様子が聞き取れる。
聞こえたのは、多くの銃声と敵のモノと思われる悲鳴、何故か遠くでダイアナの「プリーン!!」という叫び声が微かに聞こえた。
そしてダイアナ突入後、数分で海賊が白旗を上げることで勝負は決した。
その凄まじい展開にアイは、
『あの逆セクハラお姉さんって、サ◯ヤ人かク◯プトン人だったの?』
謎の種族名を言っていたが、もう聞くのも面倒なので、誰も何も聞かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます