第28話 みゆの歌声

「終わったぞ」


「ぷっ、あははははは。さすがだったぜ和哉」


「黒嶋くんにも苦手なことってあったんだね」


「和哉くん.......本当にごめんね? 私がカラオケに行ってみたいだなんていったばっかりに」


「いや、別にいいよ。こうなることが分かっていて俺も来たんだから」


 嘘です。こうなることは分かっていたとはいえ正直少し泣きそうです。いっそ、慎也みたいに大笑いでもしてくれればいいんだけど、女子達の優しさが俺の胸にしみて辛い.......。ちなみに慎也は中学が俺と同じだったため俺が音痴であることは既に知っていたのだ。


「ふぅ.......笑った笑った」


「お前はお前で笑いすぎだ」


「悪かったって。それで? 次は誰が歌う?」


「はいはーい! 私はみゆちゃんの歌が聞いてみたいです!」


「いけるか?」


「うん」


 そう言うとみゆはデンモクを操作し初め、みゆもまた最近流行りの曲を入れる。みゆは今日のために流行りの曲とかを調べてずっと聞いてた。みゆって本当に何事に対しても全力だよなぁ。なんて思っていると曲のイントロが流れ始めてみゆも歌いだす。


「.......まじか」


「や、やばいよみゆちゃん.......」


「.......俺もう帰りたい」


 なんとなくそんな気はしていた。そんな気はしていたんだけど.......まさかここまでとは.......。歌い出しから既に鳥肌が立ってるんですけど? 透き通った声というか繊細な声というか、しっとりとした感じのラブソングなんて歌われると泣いてしまう自信がある。なぁ、みゆって逆に何なら出来ないの?


「ふぅ。どうだった?」


「「「神」」」


「?」


「白夢さんまじやばい」


「みゆちゃんやばすぎるよ」

 

「みゆやばい」


「あ、ありがとう?」


 やばい。みゆの歌の上手さにみんな語彙力が迷子になってしまっている。いや、けど仕方なのないことなんだと思う。だってもう、繊細だとか透き通った以外の言葉でみゆの歌を表現しようとしたらやばいしか言えないのだから。


「じゃあ、次は武宮さんな」


「いやいや、加賀くんでしょ!」


「嫌だよ! 白夢さんの後とか歌いにくすぎる!」


「そんなの私も同じだよ!」


「うーむ.......ここはジャンケンしかないか」


「ねぇ、加賀くん。ちょっと待って。私いいこと思いついたかもしれない。黒嶋くんに歌ってもらえばいいんだよ!」


「それだ!」


「おい、ふざけるな」


 どうしてそうなる。みゆの後に俺が歌うとか拷問なの? 馬鹿なの? もう本当に帰るぞ? 誰であってもみゆの後に歌うというのはやりにくいことなのは分かるけど、それでもここで俺に歌わせようとするのは本当にひどいと思うぞ?


「あっ、それなら黒嶋くんとみゆちゃんが一緒に歌えばちょうどよくなるんじゃない!?」


「確かにそれはある!」


「いや、ないからな?」


「.......和哉くんは私と歌うのが嫌なの?」


「うっ.......」


 正直嫌かどうかで聞かれたら嫌である。多分俺の歌声はみゆの歌声を台無しにしてしまうし、何より上手い人と一緒に歌うと自分の下手さがより滲み出てしまいそうなわけでありまして.......。でもさぁ、みゆにこんなこと言われて嫌だなんて言えるわけがないんだよなぁ。


「.......嫌じゃないです」


「それなら一緒に歌お?」


「.......はい」


「この曲でいい?」


「おう」


 もうここまで来たら諦めの境地だ。俺がみゆと一緒に歌うことでどうなるかはもう考える必要さえないほど明らかであろう。ならもう恐れることなんて何も無い。やってしまおう。そして、曲のイントロが流れ始めて俺とみゆは歌い始める。


「あれだな!」


「うん!」


「「見事に台無しにしちゃってたね!」」


「.......泣くぞ?」


 知ってるよ! というか、歌う前から知ってただろ! それをわざわざ口に出さなくてもいいと思うんだよ俺は。


「でも感謝してるで和哉! お前のおかげで歌いやすくなったぜ!」


「うん! それになんだかんだみゆちゃんも嬉しそうだしね!」


「うん。和哉くんと一緒に歌えて嬉しかったよ?」


「ま、まぁ、俺も嬉しかったけど」


「はいはーい! 2人の世界に入り込むの禁止ね! 今日は私と加賀くんもいるんだからね!」


「そうだぞ2人とも! ということで、歌います!」


 それからは慎也に続いて武宮さんも歌い、それからは適当な順番で歌ったり誰かと一緒に歌ったりとカラオケを満喫した。なお、俺の歌には最後までみんな慣れてはくれなくずっと笑われていた。

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