第9話 俺の正体


「黒嶋くん」


「.......ん?」


「今日はみゆちゃんお休みなの?」


「みたいだな」


 武宮さんの言う通りみゆは家に帰って来ないどころか学校にすら来なかった。というよりは、みゆの制服などは俺の家にあるから家に帰って来なかったみゆが学校に来ているなんてことはありえないのだった。


「みたいだなって.......喧嘩でもしちゃったの?」


「.......」


「はぁ.......分かりやすいなぁ。私が話聞いてあげようか?」


「いらない」


「いや、でも」


「俺のことは放っておいてくれ!」


「.......分かった」


 はぁ.......ほんと何してんだろ.......。武宮さんは善意で俺の話を聞いてくれようとしていたのに完全に八つ当たりしてしまった。それに、


「あの様子だと武宮さんの家には行っていないのか.......」


 みゆが家に帰って来なかったので誰かの家にお邪魔させているもんだと思っていたのだ。その中でもみゆの友達という意味では武宮さんの家が俺の中では有力候補ではあったのだがどうやら違ったらしい。


「まさか、外で1日過ごしたなんてことないよな.......」


 今は4月なので日中は暖かくはなってきているが夜になると外はそこそこ冷え込むので、死ぬことは無いにしても風邪を引く可能性は高い。それに何より外にいるとみゆの周りには絶対に良くない輩が集まるだろう。遊園地に行く時も駅での待ち合わせとしたらナンパされていたし.......


「.......大丈夫だよな」


 そう思うと急に不安が押し寄せてきた。俺はすぐに席を立ち帰り支度をと言っても朝のホームルームさえまだ始まっていないのでカバンから出した筆記用具をカバンに戻すだけなんだが。


「黒嶋くん? どうしたの?」


「帰る」


「え?」


 俺がカバンを持って教室から出ていこうとすると武宮さんが声を掛けてきてくれた。さっき、俺から八つ当たり気味に突き放したばっかりだというのに声を掛けてくれる武宮さんは本当にいい人だと思う。こんな人がみゆの友達になってくれて本当に良かったと思うが今の俺はそれどころでは無いので武宮さんにはそれだけ言って俺は教室を出る。


 それから、学校に登校してくる生徒とすれ違うようにして校門から出ていく。校門の前で立っている先生からは声を掛けられたが俺はそれを無視して家の方を目指す。もしかしたらみゆが家に帰ってきているかもしれないと思って。


「やっぱりいないよな.......」


 そんな俺の都合のいい考え通りなんていくはずもなくみゆは家には帰っていなかった。俺はこのことでより不安を覚えたのでLINEでメッセージを送ろうとするが


「一体今更何を送れって言うんだよ.......」


 とはいえ、みゆの安否は絶対に確かめておかないと警察に相談する前に手遅れだなんてことになったら俺は俺を一生許すことは出来なくなってしまうだろう。まず間違いなく自殺してしまう自信がある。迷っている暇なんて俺にはなかった。俺はみゆに電話をかけると電話は思いのほかすぐに繋がった。


『みゆか! 大丈夫か?』


『.......うん』


『今どこに』


『.......ごめん』


 そう言って電話は切れてしまう。ひとまずみゆは無事.......と言えるかは分からないが生きてはいてくれていることに少しだけだが俺は安堵を覚えていた。


「けど、ごめんって.......悪いのは俺なのに何謝らしてんだよ.......クソ.......」


 それに、今どこにみゆがいるのかは分からない。電話はすぐに繋がってみゆが出たということは拉致されていたりと言ったことはないと思いたいが.......。


「警察に.......」


 警察に相談するのが1番正しいことなのだろうがそうなると大事になってしまうだろうしそんなことよりも、


「みゆの親が出てくるよな.......」


 警察に相談するとなると親に話が行くのは当然だし、みゆは両親とまた過ごすことになることは間違いないだろう。本来であるならこれはいいことなのかもしれないが1度子を捨てた親だ。絶対に良くないことが起こるのは間違いない.......。それに俺はみゆにはもう親に会って欲しくないと思っているし、会わせる気もない。


「けど、これも俺のわがままなんだよな.......」


 警察に相談するのは最終手段だ。このわがままのせいで取り返しのつかないことになるかもしれない可能性は大いにある。


「警察に相談してもしなくても結果は最悪か.......」


 これはもう俺1人ではどうすることも出来なさそうだ.......。自分勝手でありながら無力。他人に自分のエゴを押し付けるだけ押し付けて俺自身は何も出来ない。ただの口先だけのやつ。それが俺の正体であった。今思い返すと俺はずっとみゆに自分のエゴを押し付けていた。それをみゆは受け入れてくれていた。その優しさに俺は調子に乗っていたのかもしれない。みゆなら俺の言うことならなんでも聞いてくれると。


「その結果がこれか.......」


 けど、それなら俺は今の状況を放置なんてしていられない。自分勝手に振舞った結果がこれだ。これでみゆに何かあってしまうなんてことは許されない。俺は無力だ。それなら、力ある者に頼るしかない。


「.......行くか」


 そう言って俺は家を出たのだった。

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