第6話 告白
【side.みゆ】
「私はおばあ様に謝らないといけないことがあるんです」
私がそう切り出しても和哉くんのおばあ様は何も言わずただ続きを促すように視線で促してくる。
「和哉くんが冬休みに倒れてしまったのは私のせいなんです.......。今の私は和哉くんの部屋で一緒暮らさせてもらっているんです.......。今でこそ私もアルバイトをしていますが、一緒に暮らすようになった頃の私は和哉くんの優しさに甘えてただただ和哉くんの家に住まわせてもらっているだけでした.......。そのせいで和哉くんは仕事の量も増えてしまって.......大事なお孫さんを私なんかのせいで.......本当にすいません」
私は正座をしながら頭を下げ続ける。私が和哉くんの実家に行きたかった理由。和哉くんのおばあ様に伝えたかったことはこれであった。和哉くんは私のせいじゃないと言ってくれるがあんなのは私のことを思っての嘘に決まっている。私が和哉くんの家に行かなければ、過労でたおれることなんて無かっただろうし、和哉くんのおばあ様達が心配することも無かった。
「顔をあげなさい」
「.......はい.......え?」
和哉くんのおばあ様は笑っていた。今まで生きてきてこんな優しい目で見られたことなんか無いのではないかと思えるくらいに穏やかな顔を和哉くんのおばあ様はされていた。
「そんなことは言われなくても分かっていたよ。和哉があんたのために無茶した結果倒れたってことはね。まさか、同居しているとは思っていなかったけどねぇ」
「!?」
「あの子はね、自分がこうと決めたら一直線に突き進んでしまうことが昔から多い子でねぇ。それでも、あの子が無茶をする時は決まって誰かの為だったんだよ。自分のことより他人のことばかり優先してしまう。それがあの子にとってのいい所でもあり悪いところでもあるんだよ」
それは分かる。和哉くんと一緒に暮らすようになってから.......いや、和哉くんが私を家に連れ帰ってくれた日から和哉くんはずっと私のことを第1に考えてくれていた。その結果、倒れてしまうまでに自分自身を追い込んでしまった。
「だから、和哉があんたの事を彼女だと言って連れてきた時にすぐに分かったよ。あの子はこの子のために無茶をしたんだなってねぇ」
「だから、私なんかのせいで」
「その私なんかというのはやめてくれないかい?」
「!?」
「あんたが自分のことを低く評価するのは勝手だけどね、そんなあんたのためにあの子は頑張ったんじゃないのかい? そんなあんたの為に頑張ったあの子がそれだと、馬鹿みたいじゃないかい? あの子にとってのあんたは倒れるまで頑張る価値があった。それだけ、あんたという人間をあの子は評価していたんじゃないのかい?」
私は何も言えなかった.......。私自身が私を蔑むことで同時に和哉くんまで蔑んでいたことになるなんて.......。和哉くんは私のことを下に見たりそう言った発言は何もしてこなかった。両親に捨てられた私に対して哀れんだりすることも無く真摯に私のことを考えてくれた。初めて話したような私のためにも本気で怒ってくれた。それなのに私は.......
「分かってくれたみたいだね?」
「.......はい」
「それにあんたは自分で思っているほど価値のない人間では無いんだよ?」
「.......どうしてそう思うんですか?」
「あんたに何があったのか私は知らないけどね、あの子がぶっ倒れるまであんたを救おうとしたんだ。生半可な事じゃないに決まっている。そんな目にあったのに今のあんたは強く生きている」
「でも.......当時の私は本気で死のうとしていました.......」
和哉くんに出会わなければ確実に私は今生きていなかっただろう。自殺していた可能性だっておおいにあった。今の私があるのは全て和哉くんのおかげなのだから。
「それでも、今生きてるじゃないか?」
「それは.......全部和哉くんのおかげです.......」
「確かにあの子があんたの支えになっていたのかもしれない。けどねぇ、生きることを選択したのはあんた自身なんだよ?」
「!?」
「別にあの子がいてもいなくてもあんたは死ぬことを選ぶことは出来た。本当に死にたくなるような目にあったんなら、死んでいてもおかしく無いんだよ。死ぬということは、人間に唯一与えられた本当の自由なんだからねぇ。けど、あんたはそれをしなかった。それはあんたが自分自身に打ち勝ったということなんだから、それは誇るべきことだと私は思うよ」
私はもう自分の目から溢れる涙を止めることは出来なかった。私はただ和哉くんに救われただけ。私は何もしていないし、そんな私なんかに価値なんかないと本気で思っていた。けど、それは違うと言ってもらえた。誇るべきこととまで言ってもらえた。たったこれだけの事なのに私は私自身が救われた気がしたのだ。
「それにね。私は嬉しかったんだよ。あんたがあの子のことを本気で好いてくれていること。全て正直に私に打ち明けてくれたこと。そんなあんただからこそあの子を任せられる。あの子は一体誰に似たのかすぐに無茶するからねぇ。だから、あの子のことを支えてやってほしい」
そう言って和哉くんのおばあ様は私に頭を下げてくる。あぁ.......本当に和哉くんは大切に思われているんだなぁ.......こんな若輩者であるはずの私に頭を下げてくるなんて.......。
「任せてください。もう二度と心配させるようなことはさせないと約束します」
私がそう言うとおばあ様は満足そうに微笑んで私を見る。
「ありがとう」
「い、いえ、そんな」
「これで私はもういつでも死ねるね」
「そ、そんな」
「冗談だよ。和哉とあんたが結婚するのを見届けるまではおちおち死んでいられないからねぇ」
「け、結婚!?」
和哉くんと結婚.......だめだ、考えただけで頬が自然と緩みそうになってしまう.......。顔もすごく熱いし.......。
「その様子だと、曾孫の顔を見るのもそう遠くないかもしれないねぇ.......」
私はもうこれ以上おばあ様の顔を見ることは出来なかった。もう考えただけで恥ずかし過ぎて顔どころか全身が熱い。私はしばらく俯いたまま微動だに動くことすら出来なかった。
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