第26話 予兆
「う~ん! あっまぁい!!」
「.......よくそんなもん食えるな」
俺は今、秋風に駅前のクレープ屋でクレープを奢るという約束を現在進行形で果たしている。
昨日の夜に明日の放課後が暇だからクレープを食べに行こうと言った旨のLINEが秋風から送られてきたのだ。今日はバイトのシフトも無かった.......というより、秋風は俺のシフトが入ってないことを確認した上でLINEを送ってきたのだろう。なので、断る理由もなく、約束は約束なので了承して今に至るというわけだ。
「甘くて美味しいんだよ?」
「1200円もしてまずいとか言われたら俺が泣くわ」
「あはは。ちゃんと美味しいから泣かないでね? 1口食べてみる?」
秋風はそう言って俺にクレープを差し出してくる。こいつ.......わざとなのか? そんな自分の食べたところを俺に差し出して俺が食べれるわけないだろ.......。
「いや、いいよ」
「え~美味しいのに。もしかして、間接キスとか意識しちゃってるの?」
こ、こいつ.......ニマニマしやがって.......やっぱりわざとだったのか.......。だが、俺は大人だ。こんな安い挑発に乗ったりはしない。だから、ここは大人の対応として、
「んじゃ、約束も果たしたし帰るわ」
「ちょ、ちょっと待って! 冗談だから!」
ふっ、これが大人な対応というやつだ。というか、普通に帰りたい。今日はみゆに出掛けるとか何も言っていないから早く帰らないとまたみゆに心配をかけてしまいそうで怖いのだ。ちなみにだが、みゆはバイトの休みの日を俺のバイトの休みの日に合わせているので、今日はみゆもバイトが無いはずだから既に家に帰っていると思われる。
「普通に帰りたいんだが?」
「さすがにそれはひどくない!? 黒嶋くん、私に興味無さすぎない!?」
「別に秋風のことは嫌いとかじゃないぞ?」
「あ、ありがと.......じゃなくて! もう少し私に付き合ってくれてもいいでしょ!」
「ん~そうしたいのも山々なんだが.......」
「何か用事でもあるの?」
特に用事は無いのだが、みゆが家で待ってて早く帰らないと心配しそうだからとか正直に言えるわけもないし.......みゆのことを言わずに端的にこのことを秋風に伝えるなら.......
「早く家に帰りたいみたいな?」
「私そろそろ泣いちゃうよ!?」
「うーん.......難しいな.......あっ、家に親戚が来ていて、今日寄り道するなんて伝えてないから心配してそう? みたいな?」
「それなら、LINEでもすればいいじゃん!」
「あっ、なるほど」
「なんでその発想が無かったのか私には不思議で仕方が無いよ!」
そっか、LINEすればいいんじゃん。普段LINEとか使わなさすぎて忘れてたよ。LINEとかは基本的にメッセージとか来ないから朝と夜に確認程度に見るくらいなんだよな.......。まぁ、メッセージなんて来てないことがほとんどなんだけど.......。
ということで、みゆに家に帰るのが遅くなるとメッセージを送るとすぐに既読が付き『分かった。晩御飯の用意して待ってるね』と返ってきた。うん、分かってるから言わなくていいよ? 完全に新婚のやり取りとか言わなくていいからな? 俺達はそんなんじゃないからな!
「晩飯の時間までには帰るからな?」
「それは私も同じだがらいいよ。というか、本当にLINEの存在忘れてたんだね.......それでも現役高校生なの?」
「うるせぇ。余計なお世話だ」
「そんな黒嶋くんに聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」
「黒嶋くんって今、彼女いるの?」
「いないが?」
「即答なんだね.......」
即答も何もいないんだからいないと答えるしかないし迷う理由もないだろ? というか、なんで俺に彼女がいる前提みたいになっているんだ? 俺に彼女なんていた事なんかないというのに.......。
「いきなりどうしたんだ?」
「この前に店長がね、黒嶋くんが退院した日に店に寄った時に女の子を連れてきていたって言ってたから」
あぁ、なるほど。確かにあの日はみゆと一緒に病院から歩いて帰っていて、店長と話している間は店の外で待っていてもらったが俺が店を出て一緒に帰っているのを店長が見ていたとしてもおかしくはない。
「それも、手を繋いでたって。それって彼女じゃないの?」
うーん.......なんて説明したものか.......。さっきは適当に親戚とか言っちゃったしそれでいけるか?
「俺って1人暮らししてるじゃん? それで、退院した日に近所に住んでる親戚が迎えに来てくれてたんだよ。そのまま、一緒に帰ったみたいな?」
「してるじゃん? って初耳なんだけど! 黒嶋くんって1人暮らししてたの!?」
「言ってなかったっけ?」
「言ってないよ! あと、親戚の人が迎えに来てくれたのは分かったけど手を繋いで帰ってるのはなんでなの!?」
今は2人暮らしなんだけどそんなことは言えるわけもないので言わないが。あと、やっぱり親戚だとしても手を繋いぐのはおかしいよな.......。 まぁ、みゆは親戚でもなくでもなくただの同居人なのだが。というか、あの時は手を繋いで帰ったがあれって結構大胆なことをしていたのだろうか? .......よし、考えるのはやめよう! とりあえず、みゆは親戚という設定でゴリ押すとしよう!
「普通じゃないか?」
「まぁ、黒嶋家では普通なのかな?」
「まっ、そういうことにしておいてくれ」
「なんか、はぐらかされた気がするけど.......まぁ、いっか。今日はスペシャルストロベリーカスタードクレープに免じて許してあげる!」
ありがとう、スペシャルストロベリーカスタードクレープさん。この前は偏差値が低そうなネーミングとか言って悪かった! というか、俺は何を許されたのだろうか?
それから俺と秋風は1時間ほどだべったあと、解散となった。
「それじゃ、黒嶋くん! 今日はありがとね!」
「おう」
「それじゃ、またバイトでね!」
そう言って秋風は帰っていくので、俺も秋風に背を向けるようにして家に帰る。俺の住むアパートの部屋の前に着くと、いい匂いが漂ってくる。この匂いはカレーだな! みゆのカレーはすごく美味しいのでそれを楽しみにイキイキと部屋に入っていく。
「ただいま」
「おかえりなさい和哉くん。何してたの?」
「ん? クレープ奢ってそのまま喋ってただけだけど?」
「.............」
あれ? みゆの雰囲気が急に変わったような? なんかよく分からないけど怖いんですけど.......。なんで? そんなにクレープ食べたかったの?
「.......それって、相手は女の子だよね?」
「そうだが?」
「和哉くん。少しお話をしましょう」
「え?」
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