第25話 お礼
「100点だった」
「おめでとう。けど、何となくそうなる気はしてたよ.......」
バイトのオンパレードであったテスト週間も終わり、授業も通常授業に戻っていた。授業ではテストの返却もぼちぼち行われ今日の数学の授業もテストの返却であったのだが、あれだけ懸念されていたみゆの数学は100点だったそうだ。ちなみに俺は78点だった。
「和哉くんのおかげで春休みの補講は無さそうだよ」
「それであったら驚愕だけどな。それに、俺はこれといって何もしてないぞ?」
そうなのだ。俺はみゆの悩みの種であったものを屁理屈という名の暴力で粉々にしてやったくらいで問題の解き方などは一切教えていないのだ。
「それでも、私は助かったの。だからお礼がしたい」
「いや、いらないぞ?」
「いや、でもバイトのお給料も入ったし.......」
「家賃とか食費の分だとかで貰ったし、残りは自分の好きなように使えばいいんだぞ?」
みゆは本屋でのバイトの給料が入った瞬間に俺に住まわせてもらっているのだから当然といって、俺に5万円ほど渡してきたのだ。もちろん俺はいらないと言ったのだが、みゆもそこは譲る気がないらしく俺は渋々受け取っていた。
みゆがバイトでいくら稼いだのかは知らないが、5万円ともなるとバイトで稼いだ額のほとんどを俺に渡したと思うのだ。その上で、お礼をしたいといってまだ俺にお金を使おうとしてくれるのは俺としてはありがたくもあるけど、すごく申し訳ないのだ.......。
「じゃあ、そうする」
「そうしてくれ」
「それじゃあ、ご飯食べに行こ?」
「は?」
「ご馳走するからご飯食べに行こ?」
「話聞いてた?」
何でそうなるの? お礼はいいからお金は好きなように使えって話だったよね? 何でご馳走しようとしてるの?
「和哉くんが好きなように使えって言うから私はお礼がしたい」
「さっきも言ったが、別に数学のお礼はいらないぞ?」
「.......違う」
「ん?」
「違うって言ったの! 数学もそうだけど、この家に住まわせてくれたお礼が私はしたいの! お給料が入ったら絶対になにかお礼しようと思ってたの! なんで分かってくれないの! 和哉くんの鈍感!」
「お、おぉ.......なんか、すまん.......」
お、怒らせてしまった.......のか? 顔をうっすらと赤く染めて涙目でジト目で睨まれてしまっている.......これは、もしかして恥ずかしがってるのか? というか、鈍感は関係なくないか? けどまぁ、ここまで言われてしまえば断れる訳なんかないよな.......。
「そういうことなら.......ありがたくご馳走になろうかな?」
「最初から素直にそう言って」
「はい.......」
そう言うと、みゆも許してくれたのか満足気に微笑んで頷いてくれた。
「和哉くんは何か食べたいものとかある?」
「別に俺はなんでも」
「何でもいいは無しで」
「.......寿司とか?」
「また回転寿司でもいいの?」
うーん.......確かに回転寿司にはみゆの歓迎会ということで、先々月くらいに行ったんだよなぁ。というか、みゆが家に来てもう2ヶ月くらい経つのか。早いなぁ.......あっ、
「なぁ、みゆ」
「なに?」
「別に食べに行かなくてもいい?」
「なんで.......?」
みゆがすごいジト目で睨んでくる。何か勘違いされていそうだが、そうではない。
「いや、お礼が要らないとかそういう訳じゃなくて回転寿司に食べに行った時に約束してたじゃん?」
「約束?.......あっ、私に作って欲しいっていうやつ?」
「そうそれ」
前に回転寿司に行った時に普段みゆはお寿司をどこで買っているのかって言う話になった時にみゆは自分で作っているという驚愕発言をしていたので、その時に家でまた作って欲しいという約束をしていたのだ。
「お礼として私にお寿司を握って欲しいっていうこと?」
「.......ダメか?」
「和哉くんがそれがいいならいいけど.......」
「本当か!?」
「うん」
「良し!」
正直言って、今の今まで約束のことなんか忘れていたのだがよく思い出した俺。一緒に暮らしているから分かるのだが、みゆの料理スキルはめっちゃ高い。本人は俺の料理の方が美味しいというのだが、世間一般的にみれば俺とみゆの料理スキルの差は天と地ほどの開きがあることだろう。そんな、みゆの作る寿司が不味いわけが無いのだ。
「それじゃあ、材料とか買ってくるね?」
「荷物持ちについていこうか?」
「お礼だからいらない」
「そうか」
「それじゃ、行ってくるね」
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
この行ってらっしゃいと行ってきますののやり取りも慣れたもんだな.......最初の頃は違和感とかありまくりだったのに今ではこれが自然になってるし。
1時間程するとみゆは帰ってきてすぐにお寿司作りを始めた。みゆが言うに、この家には桶とか無いからそこまで本格的ものは出来ないかもとの事だけど普通の家に桶は無いだろ.......。それからまた1時間程するとテーブルの上にはお寿司が並べられていた。
「す、すげぇ.......」
「ちょっと練習すればこれくらいなら誰でもできる」
みゆは当たり前の事のように言うが絶対にそんなことは無いだろうと思う。みゆの作ったお寿司は見た目だけなら店で売っているお寿司と全く遜色がないのだ。種類もマグロ、タコ、ハマチ、タイ、エビ、イカと6種類もあり結構な数のお寿司の量であった。
「それじゃあ、いただきます」
そう言って俺はまず、好物であるエビを取って食べる。.......これって市販のエビだよな? 酢飯が凄いのか? なんかよく分からんけどめちゃくちゃ美味しいのだが.......。
「.......めっちゃ美味い」
「そう? それなら良かった.......」
それから俺は一心不乱に寿司を食べ続けていた。エビ以外の5種類もどれもすごく美味しいのだ。こんなに美味い寿司ならいくらでも食べてしまえそうだ。.......もう回転寿司に行けないかもしれない。
「ふぅ.......ごちそうさま」
「全部食べちゃうなんて.......絶対に余ると思ってた.......」
「美味かったからなぁ.......最高のお礼だったよ」
「そう言ってもらえると私も作った甲斐があったよ」
「ありがとうな」
「うん」
本当に美味かった.......。みゆは練習すればできるようになると言っていたけど、俺もみゆに教えて貰えば作れるようになるのだろうか?
「なぁ、みゆ。今度俺にも寿司の作り方を教えてくれないか?」
「別にいいけど.......なんで?」
「自分で作れるようになればいつでも美味しい寿司が食べれるだろ?」
「そうかもだけど.......私に言ってくれたらいつでも作るよ?」
「そうだとしても、みゆも将来的に結婚とかするだろうしいつまでも一緒って訳でもないだろ?」
「.............和哉くんの馬鹿。絶対に作り方なんて教えてあげない」
「なんで!?」
それから、みゆの機嫌を戻してもらうのに多大な時間を要した上に今度また2人で遊びに行く約束までさせられた。まぁ、みゆとどこかに出かけるのは全然嫌では無いのだけど場所を選ば無いと同級生に見られてしまうからな.......。あと、お寿司の作り方はみゆの気分で教えてくれるかもしれないし、教えてもらえないかもしれないどのことだ。.......本当になんで?
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