第20話 ただいま
「とりあえず、退院おめでと?」
「入院してたのは2日だけだったけどな」
俺は倒れてから2日間入院していた。結局入院の原因は過労であった。どうして、過労ごときで2日も入院してるんだって? 確かに予定では、昨日退院しているはずではあったのだ。だが、どこぞの馬鹿が勢いで腕から点滴と繋がっていたチューブを引っこ抜いたりしたせいで腕が腫れ上がってしまい、様子見のため1日伸びてしまったのだ。
あと、めっちゃ怒られた。点滴のチューブを引っこ抜いたのも怒られたけど、それ以上に女の子を泣かせるなって怒られた。最初は俺が騒がしいっていう理由で看護婦さんが怒りに来たんだけど、みゆが泣いていたので、俺が泣かしたと思った看護婦さんにめっちゃ怒られたのだ。みゆが俺は悪くないって言ってくれていたんだけど、いかんせん泣いてしまっているので看護婦さんは余計俺を怒りだして、他の看護婦さんたちも集まってきて完全に修羅場みたいになっていた。.......俺一応入院患者だったのにね?
「それじゃ、帰ろ?」
「そうだな。けど、バイト先のコンビニに寄って帰っていいか? 店長に謝りたい」
「もちろん」
俺の入院していた病院は家から徒歩20分ほどのところにあるので、少し回り道になるけど俺のバイト先であるコンビニを経由して帰ることも可能なのだ。
「それにしてもみゆ。わざわざ、迎えに来てくれなくても良かったんだぞ? 普通に寒いし大変だったろ?」
家から徒歩20分で着くとはいえ、真冬のこの時期に家から出て片道20分も歩いて来るのは大変だろう。
「.......はぁ」
なんか、おもいっきりため息をつかれたんだが.......。なぜ?
「別に大変なんて思ってないから。嫌だったら来てないし。なんでそれが分からないの?」
「.......ごめんなさい」
なんか、みゆがご機嫌斜めになってしまった気がする......みゆが不機嫌になるのは俺が初めて家に連れてきた日に部屋の前で1時間待たせた時以来だ。むしろ、あの時より不機嫌な気がする.......なんで?
「それより他に言うことがあるでしょ? わざわざ迎えに来てあげたんだよ?」
「ありがと?」
「うん」
なんか、機嫌がなおったみたいだ。なんで? 本当に意味が分からない.......。あと、なんか性格変わった? みゆってこんな顔するような子だっけ? .......めっちゃ笑顔が可愛いんですけど。.......なんか、みゆって俺の前で泣く度に性格が良くなるというか、可愛くなるというか、態度がマイルドになってるような気がする。.......これが年頃の娘というやつなのだろうか?
みゆと他愛のない話をしたり、無言の時間が続いたりしつつ15分ほど歩いたら俺のバイト先のコンビニに到着した。.......歩いていた時に普段より距離が近かった気がするんだけど気の所為だろうか? みゆは何も気にしていない感じだし、俺の気の所為なのだろう。
「それじゃ、行ってくるけどみゆはどうする?」
「ここで待ってる」
「分かった。できるだけ早く出てくる」
それだけ言うと俺は店内に入っていく。レジには店長が立っていた。店長には昨日のうちに電話で大事は無いことと、迷惑をかけたことに対して謝罪はしていたけど、やっぱりちゃんと謝っておくべきだろう。
「店長。ご迷惑をおかけしてすいませんでした!」
「黒嶋くん、顔を上げて」
「.......はい」
「まずは退院おめでとう。けど、言いたいことは分かるね?」
「.......はい」
「君は高校1年生だと言うのに働きすぎだ。本来なら店長として止めるべきだった私の責任でもあるんだけどね」
「そんな! 店長は俺の無理を聞いてくれていただけで悪いのは全部俺です!」
「いいや。無理を聞いてあげるのも止めてあげるのも大人であり、店長という立場ならなおさらだったんだよ」
それを言われると何も言えない.......。俺は冬休みになってから、どれだけ店長に迷惑をかけてしまっただろうか.......。本当に申し訳なく思う.......。
「だから、黒嶋くん。とりあえず、冬休みの間はバイトは休みなさい」
「そんな」
「黒嶋くん。私はこれでも怒っているんだよ? 無理をしないっていう約束だったよね? 止めなかった私も悪いけど黒嶋くんも悪いって分かっているかい? 自分の体をまず1番に考えなさい。それに、クビにするわけじゃないんだ。冬休みが明けたらまた、働いてくれるかい?」
「.......はい.......分かりました」
冬休みが明けたらといっても冬休みはあと、3日で終わるのだが6日間で収入は0というのは2人暮らしをしている俺にとってはそこそこきついのだ。しかし、今回ばかりは全て俺が悪いので何も言い返す事は出来ない.......。
「だから、有給という形で少しだけだが給与を出させてもらおうと思う。今回の事は私の責任でもあるし、黒嶋くんの事情も少しは理解しているからね」
店長には面接の時に両親が他界していること。俺が1人暮らしをしていることは軽くだが話していた。それ故にシフトはいっぱい入れてくれということを伝えるためだったのだが。.......まぁ、今は2人暮らしなんだが。
「いや、けど」
「黒嶋くんはうちの店には大きく貢献してくれているしね。だから、今は休んで復活したらまた頑張ってね?」
本当に店長には頭が上がらないな.......本当にこのコンビニでバイトができてよかったと思う。店長との出会いは俺の人生の中でもトップレベルで幸運なことであった。だから俺は、この少しでも店長に恩返しをしていにたいと思った。
「分かりました!」
「それじゃあ、今日はもう帰りなさい」
「はい。本当にご迷惑をおかけしました。あと、本当にありがとうございます!」
そう言って店を出るとみゆは寒そうに手に息を当てて温めて待ってくれていた。
「お待たせ。帰ろうか」
「うん」
そう言って歩きだすも、みゆは何故だか歩きださない。
「どうした?」
「.......手」
「手?」
「.......今日だけでいいから手を繋いで帰って欲しい」
「お、おう」
俺は何となく躊躇いを覚えながらも手を差し出すとみゆもおずおずといった感じに俺の差し出した手に手を重ねてきた。
「あったかい.......」
みゆは照れたように呟くも俺は何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。そう言って照れたように微笑むみゆの顔を見ることさえ出来なかった。そのまま、2人して帰ってきた我が家はたった2日間いなかっただけなのにひどく久しぶりな気がしたのだった。みゆが部屋の前で俺の手を離し、俺より先に部屋に入ると直ぐに俺の方に振り向いた。
「和哉くん。おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
この家にみゆはもう馴染んでいたんだなと思えて何となく嬉しくなった俺であった。
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