第12話 早朝バイト

 早朝にバイトが定期的にある生活を半年続けていると俺はある能力を身につけていた。それは、目覚ましが無くても早朝バイトのある日はバイトの時間の30分前に起きれるというものだ。コツとしては寝る前に明日はバイトと念じてから寝ることだ。そうすれば、自然と起きれるようになる。


「さて、起きるかな.......ん?」


 なんか、すぐ横に生き物の気配が.......


「なんでお前は俺のすぐ横に布団を布団をひいて寝てるんだよ.......」


 今現在、俺の部屋にいる俺以外の生き物なんてみゆか黒光りしてる虫くらいなものなのだが.......。仮に後者の方が寝起きに横にいたら俺はもう一度深い眠りについていたであろう。下手したらもう二度と起きれないかもしれないまである。それくらいに俺はやつが嫌いだし心臓にも悪い。まぁ、心臓に悪いという点においてはみゆが寝起きにすぐ横にいるのも同じなのだが.......。


「みゆのやつ.......少しは警戒心とかもってくれないと......」


 俺はそう愚痴りながらも、みゆを起こしてしまわないよう細心の注意を払いながらバイトの支度をする。と言っても、洗顔歯磨きをして着替えるだけなのだが。


「それじゃ、いってくる」


 まだ寝ているみゆにそう言って家を出る。5時からのバイトなので現在は4時40分だ。今は12月なのでこの時間だと外はまだ薄暗く人もいない。だが、俺はこの時期のこの時間帯が意外と好きだ。他の人は寝静まっているため外は静かであり、早朝だからか空気が日中より澄んでいる気さえする。何より、この薄暗い感じが落ち着くのだ。ただ、欠点として非常に寒い。雪もまばらにだが降っているため気温は、おそらく0度を下回っているだろう。この寒ささえなければ完璧なのだが.......。


「水口さんおはようございます」


 水口みずぐちさんとは、深夜帯の時間帯に入っている大学生の俺のバイトの先輩だ。


「ん? 黒嶋か。ってことはもうそんな時間か」


「また寝てたんですか?」


「まぁな。客も来ないし大丈夫だろう」


「程々にしとかないと店長にまた怒られますよ?」


「客が来たら起きるから大丈夫だ」


「それならまだいいんですけど。それじゃ、裏で用意してきます」


「おう」


 そう言って、深夜帯のシフトの人と挨拶を交わして店の裏に入るとそこには同じ時間帯にシフトが入っていた秋風澪あきかぜみおの姿があった。彼女とは歳は同じで中学校も同じだったが、高校では別々の高校で進学したのだが偶然にもバイト先で再会したのだ。ちなみに、俺の方が1ヶ月だけ早くはいったので先輩である。


 なぜ、こんな早朝からバイトをしているかというのは彼女が言うに吹奏楽部の朝練があるからだそうだ。それなら、部活が終わってから入ればいいのにと言えば、 ゛それだと遊べないでしょ!゛ だそうだ。


「おはよう」


「ん? 黒嶋くんか。おはよー」


 それから俺たちは2人揃ってタイムカードを切って深夜帯に入っていた水口さんと入れ代わるようにレジに入る。


「秋風は今日も朝練なのか?」


「もちろんって言いたいところだけど今日は休み。休みなのになんで朝から私は働いてるんだろ.......」


「知るかよ」


「黒嶋くんは今日も12時までなの?」


「当たり前だろ? 俺は部活とか何もしてないから時間はいくらでもあるからな」


「いくらでもって.......冬休みの課題とか大丈夫なの?」


「それなら、もう終わった」


「え!? まだ冬休み入って2日目だよ!?」


「冬休みの課題って冬休みに入る前の授業中に配られたりするだろ? だから、授業中にやっていってたら冬休みに入る頃には課題は終わってる」


 これで心置き無くバイトに勤しめるってものだ。まぁ仮に課題が終わってなかったとしてもバイトに勤しむのだが.......こちとら生活がかかっているのだ。課題なんてやってる場合ではない。


「黒嶋くんって馬鹿のか賢いのか分かんないよね.......。そんなんで成績とか大丈夫なの?」


「学校の成績なんてテストである程度の点数さえあればどうとでもなるから授業なんて聞く必要も無いだろ?」


 テストは基本的に与えられた問題集から出されるものだから、授業中にテスト前に出される課題をやってその答えをひたすら覚えとけおけば授業を聞かずとも問題集の答えの丸暗記でテストはどうとでもなる。


「黒嶋くんって地頭は結構いいんだね.......本当に羨ましいよ。私、馬鹿だから.......」


「秋風の場合は部活ばっかりで勉強とかしてないからだろ?」


「部活とバイトの両立だけで私には精一杯だよ.......」


「そこは、勉強と部活で両立しろよな.......」


 この時間帯だと客なんてものは、ほとんど来ないので秋風とまったりしながら時間が過ぎ去るのを待つ。7時を過ぎたくらいからはお客さんは増え出すので、忙しくはなるのだがそれも8時を過ぎれば落ち着く。


「それじゃ、もう私終わりだから」


 秋風は普段は朝練があるので、5時から8時までのシフトで入ることがほとんどなのだ。お客さん次第で少し伸びてくれたりするので、8時ちょうどに帰ることはほとんどないのだが俺としては助かっていたりする。


「おう。おつかれ」


「黒嶋くんも12時まで頑張ってね」


 そう言って秋風は店を出ていく。お客さんが減ってきたこの時間になると朝の搬入が来るので俺はレジを出て届いた商品の検品と品出しをする。レジには秋風と入れ替わりで入ってきた主婦さんが立ってくれている。この検品と品出しが終わるのがちょうど12時くらいになるので俺の今日のバイトは終わりとなるので帰宅する。


「ただいま」


 そう言って家に入ると.......


「和哉くん!」


 何故だか、いきなりみゆに凄い勢いで抱きつかれた.......

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