第10話 久しき感覚
ふ、不安だ.......。みゆのやつ、俺がバイトから帰っても家にちゃんといるだろうか.......。けど、バイトしないと生活費が無くなるし.......みゆも一緒に住むなら、今まで以上にお金がかかることも増えるだろう。単純に食費だけ考えても1人から2人になるわけだから倍くらいかかりそうだし.......。
「おはようございます」
「あぁ、黒嶋くんおはよう。シフトの時間までまだ30分くらいあるのに早いね」
「店長。折り入ってお願いがあるのですが.......」
「ん? どうかしたのかい? 辞めたいとかじゃないよね?」
「いえ、むしろ逆でシフトを増やして欲しいんです」
「増やして欲しいって、大丈夫なの? 君はまだ高校生なわけだし、今でも週5日も入ってるのにこれ以上は.......」
俺は今、コンビニでのアルバイトをしている。何故、コンビニにしたのかというのはスタッフが少なく1番多くシフトを入れてくれるのが俺の家の周りだとこのコンビニだったのだ。家の近くのショッピングモールないの店だとスタッフがそれなりにいるため、生活費を本気で稼ぐにはしんどいものがあったのだ。
俺の両親は既に他界しているため、仕送りなんてものは無い。中学までは祖父母に面倒をみてもらっていたが、1人で生活費も何とかしながら、勉学も怠らないという必死の頼みで1人暮らしをさせてもらっている。そんな祖父母に同級生の女の子を買ってお金が足りないから仕送りしてくださいなんて言えるわけがない。
「シフトを増やして欲しいって言うのもあるんですけど.......あわよくば深夜帯に入れて貰えないでしょうか?」
「深夜帯って.......黒嶋くん高校生なの分かってる?」
「それは分かってはいるんですけど.......どうしても、お金が必要でして.......」
今、俺の働いているコンビニでの時給は900円であった。学校のある日は早朝から学校に行くまでの時間か放課後、もしくはその両方にバイトをしている。早朝なら、早朝手当が付いて時給が950円になるので、若干お得なのだ。土日は両方ともバイトで朝から晩まで埋まっているため、基本的に俺に休みという休みはない。ただ、労働基準法だとかで休まないといけないので仕方なくバイトでは平日に2日休んでいるというのが現状だ。
「そうは言ってもねぇ.......」
「とりあえず、この冬休みの間だけでもいいんで!」
昨日から冬休みに入っているので、週に丸2日休みということになるのだが、俺からしたら時間と無駄でしかないのでそこにもバイトを入れたいのだけど.......さすがにそれは無理なので、深夜帯に入れて欲しいというお願いなのだ。深夜帯ならば、深夜手当も付いて時給は1200円となる。
「うーん.......理由を聞いてもいいかい?」
理由か......同級生の女の子との2人暮らしが始まるのでなんて言えるわけもないし.......
「.......前にも言ったと思うんですけど、俺って今1人暮らしをしている訳でして」
「確かにそれは前にも聞いたね。けど、今まで通りでも何とかなっていたんじゃなかったのかい?」
「そうなんですけど.......冬休みが明けたら高校2年生になるまでもうすぐなんですけど.......修学旅行用のお金が積立式で始まるんでその分のお金を稼がないといけないので.......」
このことは本当だ。嘘は何もない。ただ、俺は修学旅行なんかに行く気はないということ以外は。ちなみに、祖父母には基本的な学費は毎月、俺の口座に入れておいてくれるが修学旅行や遠足などのオプションのようなものは祖父母には伝えていない。そういった手紙などを学校で貰っても自宅で処理している。
「それくらい、親御さんに出して貰えないのかい?」
「うちの両親はもう亡くなってますので.......」
「!? それは悪いことを聞いたね.......。確かに普通に考えて高校1年生で1人暮らしなんておかしなんだよね.......」
店長は聞いてはいけないことを聞いてしまったと責任を感じてしまったのか、俯いてしまっている。
「.......お願い出来ないでしょうか?」
「うーん.......このことは誰にも言わないと約束できるかい?」
「もちろんです!」
「それじゃあ、冬休みの間だけということで。それと、当たり前だけど毎回のシフトを深夜帯にはしてあげられないからね」
「はい! ありがとうございます!」
お前は嘘をついて、店長に申し訳なさそうにしたことに心は痛まないのか? と言われればめっちゃ傷んでます.......。でも、本当の理由なんて言えるわけがないだろ.......。
「それじゃ、今後のシフトは今日中には伝えられるように調整しておくから今日も一日よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
これで、金銭面は少しは楽になるはずだ。深夜帯に働くということは今までよりも疲れはするだろうけど、冬休みの間は週ごとに丸2日も休めるのだから大丈夫だろう。問題は、冬休みが明けてからだがそこら辺は冬休み中にじっくり考えるとしよう。
それから俺は、12時から19時までの間は労働に勤しみ自宅に急ぎ足で帰宅する。急ぎ足なのは、みゆがちゃんと家に居てくれているかという不安故のものだ。
「.......良かった。とりあえず、家にはいてくれそうだ」
俺が住んでいるアパートの、俺の部屋の明かりはついていた。それから、家の前くらいに着くと
「何か、いい匂いがする」
俺の部屋周辺に、この匂いはカレーだろうか? 凄くいい匂いがするのだ。いいなぁカレー.......俺も食べたいわ.......などと思いながら、自分の部屋をドアを開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい和哉くん」
「.......あ、あぁ。ただいま」
みゆが出迎えてくれた。それも、俺のエプロンを着けている.......このシチュエーションは誰がどう見ても新婚のようにしか見えないだろう。ぶっちゃけ、めちゃくちゃドキドキしてしまっている。.......破壊力ありすぎだろ。
「和哉くんは、バイトで疲れてるだろうと思ってカレー作ったから」
どうやら、部屋の外で匂ったカレーの匂いは我が家から発せられていたらしい。家に帰ると、誰かが料理を作って待ってくれている.......久しく忘れていたことであった。俺が祖父母の家を出て約半年だから、それぶりだろう。ただ.......相手が俺がほぼ無理やり連れてきた女の子でなければ本当に完璧だったのに.......。
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