第9話 彼女の独白
【side.みゆ】
「それじゃ、俺バイト行ってくるから」
そう言って、和哉くんは家から出て行ってしまった。私の荷物を運んで急いでお昼ご飯を用意してくれて、それを食べるとすぐに家から出ていってしまった。
「いってらっしゃいくらい言えば良かったかな?」
昨日、この家には来たばかりだというのに何故だか、この部屋にはずっと居たような居心地の良さがある。今頃取り壊されているであろう、自分の部屋と同じ何かをこの部屋からは感じるのだ。それに、和哉くんともほぼ初対面にも関わらず、気を許せてしまっている自分がいる。その証拠に口調なども最初は警戒して強めの言葉を使っていたのにたった1日しかたっていないのにもう素の口調になってしまっている。なんだろうか?
「それにしても.......本当に和哉くんは何もしてこなかったな.......」
正直に言うと、私は昨日の夜、泣いてしまったあとも泣き疲れて寝たフリをして起きていたのだ。泣いたのを見られて恥ずかしくなってしまったから寝たフリをしていたというのもあるんだけど.......。
私が寝たと分かれば、和哉くんも手を出してくると私は確信していたのだけど何もされなかった。だとしたら彼は、どうして私を買ったなどといって家に連れてきたのだろうか? 私を買ったと言い張るなら、私の体をどうしようと彼の自由だとか言って好き放題してもおかしくないと思っていたのに.......。
「それに、何となく和哉くんは私と似ている気がするんだよね.......」
和哉くんは表面上は明るく振舞っているように見えるのだけど、どうしてか私にはそれが作り物に見えて仕方ないのだ。彼が私のために怒ってくれている時とかには、怒りの感情以外にも寂しさのようなものがあるような気がする。
「もしかして、和哉くんも両親と何かあったのかな.......」
本当にそうだとしたら安易には聞けない。彼が自分から話すまで私からは聞いてはいけない事のような気がするのだ。けど、何となくこの予想は間違っていない気がする。親に捨てられた私だからこそ、分かることかもしれない。
「.......気になる」
聞いてはいけない事だというのは分かっているのだが、気になるものは気になるのだ。だいたい、高校1年生のくせに一人暮らしをしているということが普通に考えて異常なのだ。親に捨てられた私が異常とか言ってもって感じもするんだけど.......。
「けど、和哉くんには感謝しないとね.......」
和哉くんがいなければ私は今頃死んでいたかもしれない。彼も言っていたけけど、私は死にたくはなかったのだ。死ぬことは誰にとっても恐ろしいことでなのだ。人に唯一本当の意味で与えられた自由は死ぬ事だとか言ってる人もいるが私にとっては詭弁でしかなかった。死にたくないと思っているのが人という生き物なのに死ぬ事が自由だとか意味がわからない。
そんなことはどうでもいい。大事なのは私が和哉くんに感謝しているということだ。もしかしたら、今日バイトから帰ってきた彼に出て行けと言われるかもしれないがそれは無いと思う。こんな中途半端に追い出すくらいなら最初から私を家に連れてきてなどいないだろうから。もし追い出されても、1日長く延命させて貰えたと考えたらありがたい話だ。美味しいご飯も食べさせてくれたし。
「彼になら本当に体を好きにしてもらってもいいとか思う私はエッチな女の子なのかな?」
私は彼になら何をされてもいいと本気で思っていた。親に捨てられた私にここまで優しく親切にしてくれた。10万円も結局、私を買ったからこの金はお前のものだとか言って私に押し付けられた。死に損ないだった私には、この1日は人生で最も幸せだったと思える1日だった。
親に捨てられる前でも私は、親からの愛情というものを与えられなかった。親として最低限のこと。つまり、お金だけは沢山与えられた。でも、それだけだった。私の親は、学校に通わせお金を私に与えるだけだった。幸せと思える時間は読書に没頭して本の世界にのめり込んでる時間だけだった。
そんな私に、こんな素敵な日をくれた彼になら私はどんな扱いを受けても構わないと本気で思う。
「そう言っても、和哉くんは何もしてこないんだろうな.......朝はヘタレとか言ったけど、和哉くんは優しいだけなんだってことは分かってるんだよね」
和哉くんはバイトに行く前に私に、1万円を押し付けて来た。これはなに? っと聞いたら彼は、「布団代だ」と答えた。バイトに行くから俺は買いに行けないから自分で布団を買いに行けとの事だった。私は、10万円があるからいいも言ったのだが、彼は断固として私に1万円を押し付けた。
「本当に彼はどうして私なんかのために.......」
考えても考えても答えは出そうにない。そう結論づけた私は、和哉くんに言われた通りに布団を買うべく家から出た。もちろん、和哉くんに渡された1万円は使うつもりは無い。この1万円はいつか彼に返すために置いておくのだ。
「そうだ、バイトから帰ってきたら和哉くんも疲れてるだろうし晩ご飯は私が作っておいてあげよう」
そう決めた私の足取りは、自分でも驚くほどかるいものであった。
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