第7話 忘却
「.......ん、んん」
「ん? 起きたかみゆ?」
「...................」
みゆは寝ぼけてしまっているのか、俺を見た瞬間にフリーズしてしまっていた。俺は今、みゆから離れたところでスマホを触って時間を潰していた。離れたと言っても我が家は部屋が1つしかないので同じ空間にはいるわけなのだが.......。ちなみに、現時刻は朝の7時半だ。
「どうした?」
「.......誰?」
「朝からご挨拶だな、おい!」
「.......そっか、夢じゃなかったんだ.......」
まぁ、そりゃ親に捨てられたなんて悪い夢くらいには普通思っちまうよな.......これが夢であったならどれほど良かっただろうか.......。
「私.......汚されたんだ.......」
「ちょっと、待て。お前は何を言っている?」
「え?」
「え? じゃねぇよ! 俺はお前に指1本触れていないわ! むしろ、お前の方が俺に寄ってきたくらいだわ!」
こいつ、なんてこと言いやがるんだ。あらぬ被害妄想もやめて欲しい。まじで、死ぬから。社会的に死ぬからって、お前を買ったとか言って自宅に連れ込んだ時点で手遅れかもしれない.......。
「.......え? 本当に何もしてないの?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ.......」
「和哉くんって.......ヘタレなのね.......」
「お前、今すぐ追い出してやろうか?」
一瞬でも本気でみゆのことを心配した俺が馬鹿だったのか?
「和哉くんは朝から元気だね」
「誰のせいだと思ってやがる.......」
昨日の夜に、自分の本音を語っからか何だか知らないが、みゆのやつ少し雰囲気が明るくなったか? それとも、寝起きでまだ頭が冴えていないだけか?
「おはよう」
「ん?」
「和哉くん。私はおはようと言ったの」
「あ、あぁ。おはよう」
最近は起きてもずっと一人だったから、朝の挨拶なんて新鮮な感じがする。それも、相手は同じ歳の女の子であるなら尚更だ。.......新鮮っていうか違和感しかないなこれ.......。
「それじゃあ、朝飯作るか」
「私が作るよ」
「いや、いい。どこに何があるとかまだ分かんねぇだろ?」
「それもそうね。じゃあ、今日のところはお願いするわ」
今日のところはということは今後作ってくれるということだろうか? みゆの料理か.......どんなのか想像もつかねぇな.......。そんなことを考えながらも朝食の準備をする。と言っても、昨日の夕飯の残りとご飯におかずとしてだし巻き玉子を作るだけだが。
「和哉くんって、本当に料理上手いよね.......」
「そうか?」
「このだし巻き卵とか、料亭で出てきても違和感ないよ」
「それは、言い過ぎだろ」
「むぅ.......このままだと、私の女子としてのプライドが.......」
「みゆは料理とかするのか?」
「自分で作らないとご飯なかったからって.......あっ.......」
なんか、シレッとすごく悲しいことを言われた気がするんだけど.......
「どうした? やっぱり口に合わなかったか?」
「いや、だし巻き玉子はとっても美味しんだけど、和哉くん今何時?」
時間がどうしたんだろうか? 俺は近くにおいてあったスマホで時間を確認すると、
「ん? 8時過ぎだが」
「早く行かないと、家壊されちゃう.......」
「あっ.......」
ここでもシレッと悲しい事を言うみゆだが、今はそれどころではなかった。早くしないと家が壊されるということは、みゆの私物を取りに行けなくなってしまうということだ。それにしても.......昨日の夜のあれはなんだったのだと言わんばかりのみゆさんなんですけど.......昨日の夜のあれで自分の中で整理がついたのか? そんな単純な話ではないとは思うがみゆが何も言わないなら、俺も口を出すべきではないだろう。
「悠長に飯なんか食ってる暇じゃねぇ! 早く用意して行くぞ!」
「.......一緒に来てくれるの?」
「は? 何言ってんだ。行くに決まってるだろう?」
「.......そっか、ありがとう。正直に言うと、昨日の今日で1人であの家に行くのは怖かったから.......和哉くんが一緒に来てくれるなら大丈夫」
なんだよ.......やっぱ気にしてるんじゃねぇか。そりゃそうだよな.......。
「なんなら、俺1人で行ってこようか?」
「私の家がどこか分かるの?」
「.......分からん」
「はぁ.......和哉くんって本当にお人好しだけど馬鹿だよね?」
「うるせぇよ.......」
残念なことに俺は何も反論出来なかった.......。これからはもう少し考えてから口に出すべきかもしれない.......。
「ふふ。けど、ありがとう」
「お、おう」
.......この不意打ちの笑みはやめて欲しい。本気で、心臓に悪いから.......。
こうして俺たちは、さっさと着替えを済ませて家を飛び出して行った。もちろん、みゆには浴室の中で着替えてもらったから俺は何も見ていない。
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