第6話 お茶会は苦痛です


 庭の散歩を終えて、いざ町へ! そう意気込んでいたのに、結局町へ降りる許可を得ることはできなかった……。残念過ぎるー!


「うう、外に行きたい」


「申し訳ございません、美琴様。

 私が力不足だったばかりに」


「あ、いえ、カナリアを責めているわけではないのよ?

 だからそんな風に落ちこんだ顔をしないで」


 しゅん、と音が聞こえてきそうなほどに落ち込んでいる。でも、これの原因はきっと町に行けなくなってしまったことだけではないのだろう。はぁ、と思わずため息をついて向けた視線の先。そこにはきれいな便せんに書かれた一通の招待状があった。


 王妃からの、お茶会の招待状が。


 要約すれば、お前もそろそろマナーを身に着けただろ? お茶会に招待してやるから来い。王妃のお茶会に呼んでやるんだ、感謝しろ、と。本当に似たもの親子だよね。迷惑なことを押し付けておいて、感謝しろ、とか。無理無理。


 はぁ、やっぱり行かなくちゃいけないかな? 面倒。


 でも、お茶会の時に着てこい、というドレスや靴、アクセサリーも届いてしまった。さすがにここまでされたら行かないわけにはいかない、よね……。

 

 そして迎えたお茶会当日。悲しいくらいの快晴。これは確実にお茶会がありますね。


失敗したら面倒だ、と、今日までマナーの復習もしてきた。きっと大丈夫、なはず! カナリアにドレスを着せてもらって、メイクも頼む。靴は履きなれないものだから、歩いていたら痛くなりそうだけれど、基本座っているとのことなのでどうにかなるはず。


「ふふ、ずいぶんとドレスを着るのに慣れてきましたね」


「そう?」


 普段、この部屋から出ない限りはドレスというよりもワンピースのようなものを着ている。だけど、ドレスを着る機会は激増したわけでして。気を抜くと、かなりだらしなく見えてしまうのが嫌で、立ち方から教えてもらったのだ。


 それが実を結んだようで嬉しい。あとは歩き方とかも教えてもらった。勉強の補佐、といっていたけれど、マナーに関しては完全にカナリアに教えてもらったな。


「では、参りましょう」


 行きたくない、そう思いつつもカナリアの後をついていく。あれ、こっちって確か前も来たことがある気がする。庭を見に行った時もこの道を通っていたよね?


「本日は会場はこちらになります」


 やっぱり! 前の散歩した庭だ。でも、今日はお茶会のためにか飾り立てられていて、以前とはまた違った顔を見せてくれている。お茶会自体は面倒だけれど、こんな庭を見れたことは良かったかもしれない。


「やっと来たのか。

 おい、お前。

 僕より後からきて、何様のつもりだ?」


 早速厄介な奴が。何様って、聖女様? でもそう答えるもの癪。無視してやろうか、頑張って何か答えるべきか。


 でも、無視した方が面倒なことになりそうだものね。


「ごきげんよう、イーサンテリア殿下。

 遅れてしまったようで申し訳ございません」


「はっ、本当にな。 

 お前みたいな愚図、やはり僕にはふさわしくない。

 な」


 な、といって振り向いた先には何人かのご令息、ご令嬢が。私を見てくすくすと笑って、殿下に同意している。いや、あんたみたいなやつが、私にふさわしくないんでしょう? 会うたび会うたび、私をけなさないとすまないのかしら。


 あ、でもこれを利用したらもう戻れるかも。どのみちゆっくりと花を堪能できるわけではないのだろうし。よし。


「あら、申し訳ございません。

 皆様のご気分を害するようですので、私はこれで失礼いたしますね。

 カナリア、王妃様にご挨拶もできなかったこと、お詫びを伝えておいて」


「かしこまりました」


 よし、帰ろう。くるりと向きを変えたとき、急に肩をつかまれてしまった。痛いんだけど……。


「なんでしょうか?

 お目汚しなのでしょう?」


「あ、い、いや、その。

 は、母上がこちらを見ている!

 今帰るなどしたら、母上が怒られるだろう!」


 母上って……。確かに王妃はこっち見ているけれど、カナリアに伝言を頼んだから大丈夫でしょう。それよりも……。王子、なんだか顔が赤い。もしかして……。


 にやり、と上がりそうになる口角を必死に抑える。もし本当にそうだったらなかなか面白いけれど。


「イーサンテリア殿下はどうなのですか?

 私は、あなたを不快にさせないためにこの場を去ろうと思いましたのに」


「ぼ、僕のために……?

 んん!

 この場にお前を呼んだのは母上だ。

 僕が決めていいことではない」


 仕方ないから、留まるといい、それだけ言うと、王子はどこかに行ってしまう。なんだ、つまんないの。もっと慌てるかと思ったのだけれど。取り巻きの方々もどこかへ消えていったので、私はおとなしく王妃に挨拶に行く羽目になりました。


「ごきげんよう、王妃様。

 本日はお招きありがとうございます」


「ああ、聖女。

 入り口から動かぬから、待ちくたびれてしまったよ」


「それは申し訳ございません」


 お前の息子に足止めされていたんだよ! という心の声はもちろんおくびにも出しません。にこにこと笑っていますとも。ええ、たとえ周りのご夫人がこの人が聖女(笑)みたいな態度をとっても。


 聖女って自分で名乗ったことないからね!? それなのに、口ではちゃんとお会いできてうれしいです、とか言うんだもの。本当に嫌になる。さらに嫌なことに、私も作り笑いというものに慣れてしまったことだ。こんな状況下でも笑みを絶やすことはない。どこかの殿下のせいで無駄に鍛えられてしまいましたから。


 ……あれ。私、何のために笑っているんだっけ?


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