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 さて、いろんな獲物を喰ってきたミミックだったが


 勇者を喰っちまったことで、人間に興味を持つようになった


 しかし彼のいる洞くつは、実に辺鄙へんぴな場所にあったので


 そこを洞くつだと認識している人の方が少ない有様ありさま


 だから、人間が訪れるようなことはまず無かったんだけど


 それでも、盗賊とか、罪人つみびととか


 お天道てんとうさまの下を堂々と歩けないような人間が、たまーに訪れた


 彼らに共通していたのは、とにかく「切羽詰まっている」ということで


 そんな連中にしてみれば、目の前で宝箱なんて見つければ


 千載一遇せんざいいちぐうわらにもすがる想いで


 開けない理由など、あるはずもなく


 そしてミミックも、そんな彼らを喰わない理由などあるはずもなく


 そんな風に、彼は人知れず化物としての格を上げていった


 しかし彼は、そんなことを願っていたわけでもなく


 ようやく、ミミックは「おや、おかしいぞ」と思い始める


 喰っても喰っても、退屈は消えないし


 喰っても喰っても、寂しさは終わらない


 致命的な間違いを犯してるという自覚を


 ようやく、空っぽの彼は持つことになった


 だけどやっぱり、彼にすればそれがコミュニケーションなので


 自分以外のものと交流する方法を、それしか知らなかったので


 彼は、彼なりに親愛を表現していくしかなかった


 宝箱に化けて、開けたやつを喰らう、っていう


 ただそれだけのことを、彼は繰り返した


 そして、どれだけの時間が経ったのか


 ある日、一人の少女が彼の元に現れた

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