第30話

 気分の晴れない思いをしたあの夜から数日、妖怪の被害にあった友人への見舞い品を見繕いに買い物に出ていた僕と緋は、ショッピングモールで男一人と女二人の三人組と遭遇した。


「お、碧兄と緋くんじゃん」

「悠真…………見事に、両手に花だな」


 中心に荷物を抱えている悠真を置き、両脇を身軽な姉達が固めるという異様な絵面ではあるが、いつもの三人だ。何がどうなってそうなったのか。質問していいものか悩んだものの、妙に得意げな顔の弟分を見ていると考える気も失せてしまう。


「なに? 羨ましい?」

「いや、別に」

「俺も碧がいるからいいや」

「……随分と失礼ね」


 こっちはこっちで、姉達の比較対象に僕を持ち出す弟の意図が読み取れずついまじまじと顔を見てしまった。しかし、僅かに眉を寄せて不満げな声を上げた莉花姉さんに取り繕うことに気を取られ、何を言う隙はもらえなかった。まあ、突っ込むだけ無駄なような気はするが。

 それよりも、この三人が三人で買い物をしているなんて初めて見たものだから、どうにも違和感が拭えないのだ。そもそも、はとこ同士で出掛けるなんてそうそうないから、違和感を覚えるのも当然なのだが。


「でも、三人で遊んでるなんて珍しいね。香澄ちゃんたちは?」

「ウチで訓練中。今日は、おじいちゃんが直々に見るんだってさ」


 終わった後はマンガを読むんだって言ってたけど、と付け足した恵梨姉さんは苦笑を浮かべる。

 僕ら五人の後釜として育てられている、香澄、都萌、春奈の三人は現在中学生だ。僕自身もそうだったように未だ死地に赴く可能性があるという自覚はないらしく、以前見た際はどこか緊張感のない訓練をしていた記憶がある。が、錫久名家現当主の白龍が直々に見るとなればどうなるか。僕達が訓練をつけてもらった時のその厳しさは祖父の比ではなかったため、泣きを見ていなければいいが。

 ――などと様々な思案は巡らせたものの、僕はそのどれも口にすることはなかった。


「んで、春奈ちゃんの送り迎えしてた悠真ちゃんが、あたしたちの買い物に付き合ってくれてたんだ」

「なるほど、荷物持ちか。偉いな悠真」

「や~ん 碧兄が優しい~」


 そして、こっちの三人も遊んでいたわけではないらしい。買い物の内容も、治療する程でもない小さな怪我の為の医療品や、戦闘時に着ている服の補修用の布や新しい服などの最低限必要な物が占めているというのだから、流石は姉さん達というか、それに付き合っている悠真も律儀というか。下心があるにしても、よくやるものだ。


「ふたりは、お買い物?」

「うん、おつかい。買うものが多かったから、碧と一緒なんだ」

「ああ、碧はチェック要員ね」

「俺だと、抜けが出ちゃうからねえ」


 僕と緋の方は見舞品を買う事が第一目的ではあったが、それとは別に母からおつかいも頼まれていた。どうせ同じ場所に行くのだからと緋が引き受けては来たものの、数がそれなりだったため買い物のメモ自体は僕が持っているのだ。それは適材適所ということで見ているだけだから、別に緋が忘れっぽいわけではない。


「分かるわかる。なんでか、ひとつふたつ抜けちゃうんだよね」

「恵梨はメモを書いても見ないもの……」

「み、見てる! ときも、あるよ…………たまに……」


 恐らく緋とは次元の違うところで相槌を打っていた恵梨姉さんは、莉花姉さんに呆れたように笑われ、悠真にはからかわれながら二人を引き連れて去っていった。

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