2度目の人生、成功は約束されていたはずが高嶺の花のせいで最初から予定が狂ってしまった

午前の緑茶

第1話 夢

 全ての始まりは文化祭だった。

 『クラスで一つ、ステージ上での出し物を決めなければならない』、そんな話し合いが行われている時、俺こと音方おとかたらくの話が上がった。


「音方が歌えばよくない?」


「いいね、それ。楽、やってみなよ」


「確かに!楽なら歌めっちゃ上手いし、絶対いけるって!」


 予想外の提案に俺が驚く間も無く、次々と同意をしていくクラスメイト達。

 おそらく夏休みにあったクラスの集まりのカラオケで披露したことが、みんなの頭の中に残っているのだろう。


「ま、まあ、そこまでみんなが言うならやってもいいぜ」


 戸惑いはしたが、俺も満更ではなかった。

 そこまでみんなから好意的な意見を言われれば、誰だってやる気になるものだ。


「じゃあ、決まりな。絶対本番成功させてくれよな」


「任せとけって。歌にだけは自信あるから」


「ははっ、期待してる」


 俺はもともと歌が好きだった。

思った通りの音程で曲を奏でるのは楽しかったし、心を乗せて歌うのは胸が踊った。

 そんな歌好きの俺がカラオケに通うようになるのは、自然な流れだろう。


 中学生の頃からは、1人でカラオケに通い始めた。

 そこで高得点を取り続けた俺は、どんどん自信をつけていった。

 結局、友人の少なかった俺は中学生の間、自分の歌声を披露することはなかった。

 しかし高校生に入って、とうとうその機会は訪れた。

 それが夏休みのカラオケだ。あの場で確かに俺は主役だった。

 みんなが取れないような高得点を次々と叩き出し、その歌声にみんなは凄い、凄いと褒めてくれた。

 あの時の印象が強く残っているのか、こうして俺はまた歌う機会を手に入れた。


 絶対成功させてやる。

 俺は心に強く誓い、文化祭の練習に励んでいった。


 結果からいうと文化祭は成功した。大成功したと言ってもいいだろう。

 俺の声は、自分の思った以上に人を魅了する力があるらしい。

 何人もの人から「ステージでの君の声に聞き惚れた」と言われた。中には見知らぬ人もいた。

 これだけ多くの人から褒められれば、より自信がついていく。


 次第に俺は想いを膨らませていった。

 より多くの人に聞いて欲しい。より多くの人に感動を与えたい。そんな想いがどんどん積み重なっていく。

 そして最後にはある一つの夢が心に浮かんだ。


------歌手になろう。


 それからの流れは早かった。

 歌手になるためには、まず注目されなきゃならない。

 だがこんな田舎ではストリートライブをやろうとしても、スカウトを受けるどころか、観客すらまともに集まらない。

 それならば、東京に行くしかない。都会なら見る人は沢山いるし、スカウトをする人も多くいるだろう。


 俺は高校を卒業して東京に行くことに決めた。

 歌手になる夢をクラスのみんなに打ち明けると、快く祝福してくれた。

 こんなに応援してくれるんだ、絶対成功させてやる。そんな想いが強く心に浮かんだ。


 向こうでの生活の準備を進めていると、秋から冬に変わり、すぐに冬が終わる。

 そして卒業式を経て、とうとう出発の時がやってきた。


「じゃあ、みんな行ってくるから」


 新幹線の乗り口で俺はクラスメイトに挨拶をする。

 みんな俺の見送りにやってきてくれた。


「早く成功させて帰って来いよ!」


「もちろんだ。2年で帰ってきてやるよ!」


 クラスメイトからの、熱い声援がかけられる。

 今でさえこんなにたくさんの人から支持してくれるんだ。成功なんて簡単だ。

 とっととメジャーデビューして、みんなにもっと俺の声を届けるんだ!


「じゃあな。みんな、また会う時を楽しみにしてろよ」


 俺は成功する明るい未来を描いて新幹線に乗り込んだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る