第46話・運命の人-2

「君は…そのー」


  「そういえば、あんたも私と同じようにここでこっそり食べるの?」


  カシリアの話を聞くこともなく、彼女は耳を疑うようなことを言い出した。


  なっ?


  は???


  からかっているのか?


  カシリアは生まれてこの方、一度もこの様に無礼なことを言われたことはない。しかしこの少女はまるで世間知らずの何も知らない子供のように見えた。


  カシリアは大きく息をし、自分の気持ちを落ち着かせた。


  「君はここの生徒なのか?」


  カシリアは彼女の質問には答えず、逆に質問を返した。


  ここの生徒じゃなかったら、どうやって入り込んだ?


  ここの生徒だとしたら、一体どれだけひどい教育を施せば、これほどの高貴な令嬢が平民のようになるのだ?


  いや、この変なお嬢様よりも、普通の教育を受けた平民のマナーの方がいいかもしれない。 普通なら、彼女はおそらく入学すらできないだろう。


  「え、私?今は未だ違うけど、これからそうなるみたいで、高等部の二年生だそうだ。あんたもここの生徒か?」


  なんてばかけた質問だ。


  この国の王子を知らないとでも言うのか。


  貴族であれば、どれほど愚鈍で無知な人でも、自分の顔を知っている。百歩譲って顔を覚えられなくても、その国の紋章をつけた王族の礼服を見ればわかるだろう?


  「…君はオレが誰なのか知らないのか?」


  カシリアは苦笑いを浮かべながら聞いた。


  「知るわけないじゃない。今初めて会ったばっかりじゃない。でも服は立派だから、あんたはきっとすごい貴族だよね?」


  貴族?カシリアを徹底的に呆れさせる答えだった。本当に一体どこのお嬢様だ!?家の者とじっくり話さねばな。


  この天然極まる会話に意外にもカシリアは思わずホッとして、吹き出してしまいそうになった。


  カシリアは彼女の質問には答えず、ただ彼女のおかしな様子を見ながら笑いをこらえていた。


  「…?ねぇ、なんで何も話さない?失礼じゃないか?」


  カシリアが質問に答えないので、この彼女は口を尖らせて不満そうに言った。


  世の中にこの様な貴族が実在するとは思わなかった。カシリアは結局我慢できず、笑い出してしまった。


  「君はひょっとしてオレの名前すら聞いたことがないのか?」


  「あるわけないじゃない。あんたなんっていう名前だっけ?」


  少女は本当に知らない様子で、嘘をついてはいないようだった。


  あたりまえか。もし知った上でこの様な失礼なことをしているのなら、一族に影響が及ぶ。


  「カシリアだ、君は?」


  「カシリアね、ふむふむ、後ろは?ファミリーネームは何?」


  少女は頭を傾けて聞いた。


  こいつは馬鹿だな?とカシリアは思った。可哀想になってきた。


  「君の番だ。自分の名ぐらい分かるだろう?」


  「私?私はエリナ。ちゃんと覚えてね!」


  彼女は少し誇らしげに言った。


  「名前だけ?君のファミリーネームは?」


  「ふふ~ん、秘密。君も教えてくれなかったじゃない?これでおあいこだよ。」


  …彼女の予想外とも予想通りとも言えない返答に苦笑いをするしかなかった。彼女は自分と同じくらいの家柄だと思っているのだろうか?


  カシリアは大きくため息をついたが、心の中はとても楽になった。この少女と一緒にいるだけで、穏やかな気持ちになり、楽しくなる。


  【本当に奇妙で面白い少女だ。】













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