第21話・噂は人を殺める
「キンコンカンコン」休憩のチャイムがなり、昼休み時間に入った。
私はすぐに立ち上がり、そのまま教室を離れようとした。
だが私の予想以上にも早く、他の貴族に道を阻まれた。
「リリス様、明日は王家学術能力テストの日ですわ。今日は昼食をご一緒にしても宜しくて?」
「そうですわ、私たちはずっとリリス様のことを応援してきましたから、いつかはリリス様のようにいい成績を取りたいとも思っていますわ!」
「そうですよリリス様、今日のメニューはリリス様の好物のビーフシチューだから、一緒に食べましょう~」
引き止められている短い間に、四方八方から更に何人もの貴族の少女がやってきて、私を囲い込み、完全に道を塞がれた。
最悪。いくら私が冷たく振舞っていたとしても、数多くの貴族が私にくっついてくる。いつもはこういう偽りの友情を全く気にしていないが、こんなときに邪魔されると、とても困ってしまう。
…それじゃあ今日の話題は王家学術能力テストになるよね?それならなんとか…
私はため息をつき、彼女らの誘いを受け入れるしかなかった。
「皆さんの応援ありがとう、ではせっかくだから、みんなで食堂へ行きましょう」
私はさりげなく、上品に微笑みを見せた。
私たちだけで食堂の長いテーブルを占めた。あちこちから貴族の少女が集まってきて、色んなことを聞きに来た。
はぁ…元々今日は十分機嫌が悪い一日だったのに、これ以上彼女たちの相手はしたくない…
「・・・・・・といいうことなんですけど、リリス様、私の考えは正しいのでしょうか」
「そうね、ベーラさんの話はとても理にかなっていると思うわ、なにせ男子は…」
私は依然笑いながら曖昧な返事を返していたが、それでも貴族少女達の好奇心には微塵も影響しなかった。
疲れる。今日はどういうわけか、気持ちがかなり落ち込むし、体も変に疲れている。
「そうだリリス様、昨日街のアクセサリー店で何か買ったんですか?」
突然、無邪気な少女からの質問が、落ち着こうとしていた私の心の平穏を壊した。
「!?昨日…?」
私の緩んだ精神は突然極端な緊張感に包まれた。何度も繰り返して周りの貴族たちを見回して、恐怖を覚えた。ひょっとして昨日街にいたのを学生の誰かに見られたの?その可能性は極めて高い。私は社交界のトップとして、常に最高の知名度を持っている。加えてこの目立つ髪のせいで、後ろ姿だけでも、十分私だと分かる。
これは一体、どういうことなの!?一体いつどこで目撃されたの?アクセサリー店の前に立ち止まった時?それともあの老婆に倒された時?まさか老婆について路地裏に入ったところまでも?いやいやそんなはずはない…
一瞬、時間が普段の何百倍にも遅く感じた。心臓が突然加速して、指の震えと目の動揺が抑えられず、私の思考を妨げた。今持っている情報だけでは、この問題を上手くやり過ごすことはできないから、話をすり替えて、話題を逸らさなきゃ…
「そうですわ、昨日私も友人と店でアクセサリーを選んでいましたの。アクセサリーを見ているリリス様を見かけまして。リリス様はどんなアクセサリーがお気になりましたの?」
「わあ~リリス様昨日アクセサリーを買いに行ったのですか?ファティーナさんへのプレゼントですか?」
「そうですわ、もうすぐファティーナさんの誕生日だから、私も何かプレゼントを選んでこなきゃ~」
私の返事よりも先に、貴族たちは勝手におしゃべりを始めた。アクセサリー店からファティーナの誕生日プレゼント、話題を変えるチャンスが来た。
「ええ、そうよ、ファティーナさんは最近王都で名の知れたデザイナーにドレスを新調したと聞いたわ。ちょうど似合うアクセサリーを探しているところなの。皆さんどんなプレゼントを用意したの?」
私はさり気なく話題を変えようとした。
「お話が聞けて良かったわ。私もアクセサリーをプレゼントしようとしてたの。幸い未だ買ってないわ。リリス様のご用意した品を教えてもらえる?同じものを送るとなんだか悪いしね」
しまった、話題がまた戻ってしまった、しかも更に返答しにくいものになった。
「そうね…私昨日もかなり迷ったのですが、ルビーで作ったアクセサリーがファティーナさんに似合いそうだとおもって、それにしようかな~と」
ルビーは私の好きな宝石で、以前家でアクセサリーを注文した時も、よくルビーを素材に選んでいた。だからルビーのアクセサリーはありふれたものだと思う。しかもルビーの色はファティーナに似合うし、いかにも合理的な答えだと思った。
「うそ!ルビーのアクセサリーですって?素材のお代だけでも金貨数枚だと聞きましたわ、完成品は少なくとも金貨十数枚は要るはずですよ!」
周りの貴族が一斉に騒ぎ立てた。
そんなに驚くものなの?以前貴族のパーティーでアクセサリーを何度も送っていたけど、自分がルビーを愛用しているからそれにかぶらないようにあえて他の色の宝石を選んできた。まさかルビーが珍しくて高価なものだとは思っていなかった。いけない、こんな特殊なプレゼントを贈ってしまったら、他の貴族たちは文句があるに決まっている。
「そ、そうなの…でもあのアクセサリーについてるルビーはメインじゃないから、言うほど高い品物じゃないわ」
私は慌てて付け加えた。私がファティーナを特別扱いしている様に思われるわけにはいかない。
「そうなの、でも私昨日見に行った時は、ルビーを使ったアクセサリーを見た記憶がないのだけれど?オーダーメイドする必要があるの?」
近くの好奇心旺盛な貴族が話に割り込んできた。
そうなの?…ルビーってそんなに稀少なものなの?どうして誰も教えてくれなかったの!?
「えっと、それはね、そう、オーダーメイドしたの…」
次の発言で嘘が見破られるのが怖くて、心臓がバクバクする。
私は嘘が苦手なわけではない。私の場合は嘘に真実を混ぜて、あやふやにする。このような論理的でよく吟味された嘘は、聞き手には判別出来ず、見破られた時でも、ある意味では嘘じゃないと証明できる。
だが今回の場合は完全に私の知識を超えていた。最も見慣れた宝石だと思っていたら、まさかのレアもの。この嘘を庇うには、他に新しい嘘をつくしかなく、ものの価値に対する常識がない私がこれ以上彼女たちと話したら、あっという間にばれるに違いない。
「そういえばみんな、新作ドレスを見ました?ラペオ王族風のドレスが最近王都で流行ってるって噂が」
私はまたさり気なく話題を変えた。
「ええ、私も一着買いたいわ、王都の街のドレス店で最新のスタイルが入手できるのだから、今度何時か一緒に見に行きましょう~」
「そうだね、でも最近王都の治安があまり良くないみたいだから、もう少し経ってから行きましょう」
やったわ!このまま話題を他へ…
「ああ!思い出したわ、私リリス様にどうしても聞きたいことがありますの!」
突然1人の貴族が立ち上がった。私はとても嫌な予感がした。
「あのう!昨夜私が街に買い物に出かけて、帰りは学校によってから家に戻ったのだけど、ちょうどリリス様が王族風のドレスを着て学院から出てきたのを見かけましたの!それからリリス様が王家の馬車に乗っていたのも見ました!リリス様、昨夜カシリア殿下と何かあったのですか?」
その貴族の少女は興奮気味に言った。
しまった!学校に戻る時は護衛が人を近づかせないよう見張っていたけど、まさか家に帰る時に誰かに見られたの!?
「ええ!?あの近寄りがたいカシリア殿下がなんとリリス様と…」
「わあ!ずっとリリス様は太子妃になるのだと思ってはいましたが、まさかこんなにも早く進展したのですか!?」
この話題は瞬く間に思春期の貴族少女たちの心を居抜き、色んな方向から大げさな悲鳴が聞こえてきた。本来この時期の貴族少女達はこういう桃色の話題に興味津々だが、身近にいる人が主人公だと尚更だ…
「あの、皆さん何か勘違いをしているのようだけど、昨夜殿下とは何もなかったわ。王家のドレスに着替えたのと、光栄なことに殿下の護衛に家まで送らせたのは、単に…」
話が未だ途中だというのに、つい詰まってしまった。貴族少女たちの喧騒を止めるために、慌てて説明し始めたけど、合理的な言い訳を思いつかない…
どう説明すればいい?問題が2つある。王家のドレスを着ていた理由と、殿下の馬車に乗っていた理由だ。なんとか合理的な言い訳で、2つの問題をいっぺんに説明しないと。
ドレスはパーティーや舞踏会を連想させる。でも、殿下と共にパーティーに出る予定もなければ、学院で行うパーティーもない。殿下が私をダンスの練習に誘ったというのも、まるで殿下が私を口説いているかの様に聞こえるし、そもそもの話、殿下は私に興味がない…問題から逃げるために、殿下に濡れ衣を着せるような卑劣なことはできない。
だからといって、大人しく昨夜襲われたのは自分だと認めるわけにもいかない。そのような愚かな真似は自殺行為に等しい。
どうすればいいの?なにか完璧な言い訳はないの?
「昨夜は…その…」
いくら知恵を絞ったところで答えは出なかった。汗が吹き出してきて、オーバーロードした頭が真っ白になって、普通に話すことすらできなくなっていた。
この危機一髪の時に、後ろからカシリア殿下の声が聞こえた。
「ごめん、リリス、今いいかな?」
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