消えたチーム〜俺と横浜フリューゲルス

惟宗正史

第一章 元旦

 二〇二〇年。元旦。

 年末に紅白を見た翌日。俺はリビングでテレビを点けた。テレビ画面には満員の新国立競技場。

「そうか、今年から新国立競技場か」

 俺はコーヒーを一口啜って呟く。

「やぁ、おはよう」

「おう。飲むか?」

「もらおうかな」

 リビングにやってきた美女は俺と付き合いが長い聖。俺がコーヒーを入れて聖の前に置くと、聖は香りを楽しみながら俺に話しかけてくる。

「今年の決勝戦はどこだったかな?」

 俺と聖が見ようとしているのはサッカー天皇杯決勝戦。毎年元旦に行われる日本でも最大級の栄誉がある試合だ。

「ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズだな」

「おや。やっぱりイニエスタとビジャを引き抜いたヴィッセル神戸は強かったんだね。今年は神戸かな」

「どうかな。鹿島だってJリーグ発足当時からいるチームだ。意地があるだろうさ」

 選手入場を見ながら会話する俺たち。

 別に俺達は鹿島や神戸のサポーターなわけではない。そしてサッカーの熱心なファンな訳でもない。俺はサッカーをやっていたのは幼稚園の時で、小学生では野球をやっていた。聖にいたってはサッカーをやったのは体育の授業くらいだ。

 そんな俺達が元旦にサッカーを見るのは天皇杯が俺達にとって特別だからだ。

「早いものだね。あれからもう何年経ったかな」

「あの試合が99年だから、もう21年か」

「早いものだね」

 聖の言葉を聞きながら俺はリビングにかかっているサッカーチームの応援フラッグを見る。

 青を基調としてFのアルファベットが入った応援フラッグ。

 99年の天皇杯決勝を最後に消えたチーム。Jリーグ史上唯一消滅したサッカーチーム。

 横浜フリューゲルス。

 それがそのチームの名前。そして俺と聖が天皇杯を見る理由。

「懐かしいね。あの日も寒かった」

「そうだな」

「君はまだ応援歌歌えるかい?」

 聖の言葉に俺は横浜フリューゲルスの応援歌を口ずさむ。それを聞いて聖も歌い始めた。

 しばらくして二人で歌い終えると、俺達は顔を見合わせて苦笑した。

「まだ歌えるものだね」

「忘れようとしても忘れられないんだよなぁ」

「僕達の青春だったからね」

「小学生の頃を青春と言っていいのかね」

「いいんじゃないかい? いつまでも青春時代は続くって言う人もいるし」

「誰の言葉だ」

「僕の父親さ」

 聖の言葉に俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。

 ふとリビングの窓から外を見ると。あの日々と変わらない青空が広がっている。その青空を見ているとあの日々がついこの間のように思い出せる。

 横浜フリューゲルスを応援しに三ツ沢公園球技場に通っていた日々が。

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