YOU-KAI


 とてつもない痛みに、視界がチカチカとスパークする。身体が仰け反り、全身に高圧電流が流れるような感覚。明滅を繰り返す視界は次第にフェードアウトしてゆく…



…………………………


………………


…………



『………します………はい…はい…えっ!?…失礼致しました。ただいま速報が入りました。東京都、吉祥寺駅近くの商店街で、50人を超える通行人が激しい嘔吐ののち、意識不明の重体…』


「…えっ!?」


 大音量で流れるテレビニュースの速報に目を覚ますと、再び、律子は自分の部屋のソファーに部屋着で腰掛けていた。急いで身体中を(下半身を重点的に) 触り、自分の身に何事も無かったことを確認する。


「また嫌な夢…マジで最悪………てかこれ、あのビルの前じゃん…すぐ近く…」


『…警察によると、原因は調査中とのことですが、現場近くにたまたま居合わせた番組スタッフによりますと、騒動前に爆発音などは聞こえず、匂いも感じなかったということです。現在、救急隊と近隣の医療従事者による懸命な救命活動も行なわれているそうですが、有毒ガスや無差別テロ等の恐れもありますので、みなさま、決して近くには近寄らないようにして下さい…』


 悪夢の余韻に震える膝を抱え、律子は泣いた—





———————————





「現場の監視カメラ映像、用意出来ました!」


「再生してくれ」


「はい。事件発生5分前、15時21分から再生します」


 窓もない小さな映像解析部屋で、3人の刑事がモニターを囲んでいる。


 機器を操作し、映像を再生している20代後半くらいの若い女性刑事。その横で椅子を逆さに座り、食い入る様にモニターを眺める50代半ばのベテラン刑事。その2人の後ろに立つ、眉をしかめ腕を組みモニターを眺める40代前半の寡黙な刑事。


 モニターに事件現場となった商店街が映ると、休日ほどではないが、街は多くの人で賑わっていた。


 そのまま何事も無く5分が過ぎると、何の前触れもなく、スーツ姿の男性が道の真ん中で赤黒い吐物を撒き散らし、倒れ、その吐物の中で踠いている。そこから放射状に人々が同じ症状を発症し、次々に倒れてゆく。


「…同じだな…」


「はい。昨日20時38分にカフェの女性客1名、本日12時45分に勤務中の看護師1名が同様の症状を発症し、その後間もなく死亡しています」

 ビデオを巻き戻しながら、若い女性刑事はメモも見ずに報告する。


「…まるで地獄だ」


「両現場ともに爆発物や有毒ガスなどが使用された形跡は見つかっていません。原因は調査中ですが、先ほど入った情報によりますと、2名共に、吐物のほとんどが自身の脳だったそうです」


「えっ…?自分の脳みそを吐いてたってことか!?」


「はい。まったく信じられませんが、鼻腔上部に空いた穴から溶けて流れ出た脳を、胃液などと共に吐いていたようです…」


「なんだそりゃ…そんなの聞いたことねーぞ。毒ガスじゃそうはならねぇだろう?」


「…もう一度再生します」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る