MAJIKA

 血も止まり、トイレの洗面台で手を洗っていると、扉の向こうで女性の悲鳴が鳴り響く。


「きゃー!!!」


 ドン!ガシャン!!


 急いで店内に戻ると

 そこには

 床に倒れた女性。


 鼻血を流し、意識を無くした女性は、吐物を撒き散らしながら、壊れたおもちゃのように全身を激しく痙攣させている。よく見ると、隣のテーブルにいた二人組の一人だった。


 律子は彼女の元へ駆け寄り、店員に救急車を呼ぶよう促す。


 その場に立ちすくむ、友人らしき女性に原因を尋ねるが、「わからない」としか返事は返ってこない。


 身体を横にし、ズボンのベルトを緩めていると、ちょうどそこにカホが戻ってきた。


「どした!?」


「原因は分からないけど、突然の発作か、全身の痙攣、意識も失ってる!周りの椅子とテーブルどかして」


「うん、救急車は!?」


「呼んだ!」


 5分ほどで痙攣は治まり、呼吸と心音を確認するが、心拍はすでに停止している。


 急いで着ているシャツのボタンを全て外し、無駄のない、息の合った動作で、カホと律子の2人が救命処置を行っていると、そこへ救急隊が到着した。


「ご協力、大変感謝いたします。ここからは我々が引き受けますので」


 律子は冷静に、そして端的にこれまでの様子と、自分たちが看護師であることを救急隊に伝えると、女性とその友人を乗せた救急車は走り出した。


 周りでは、沢山の野次馬が一部始終をスマホ片手に見学していた。


「チッ。マジかコイツら」


「カホっ!」


 荒れた店内はしばらくの沈黙を続けたあと、店長らしき男性店員によってアナウンスが入る。

「えー、あの、皆さま、大変ご迷惑をお掛けいたしました。ただいま店内を片付けますので、そのままごゆっくりしていただければと思います。なお、ご注文いただきましたお品は順を追って…」


「出よっ」


 カホに手を取られ、店を後にする。


「なんか変な夜だね」


「うん…」


「彼女、大丈夫かな…?」


「うん…」


「唇どうしたの?さっきので?」


「ううん…よく分かんない」


「唇切れてて分からないってどういうことよー。ハハ…」


「うーん。なんか調子悪いし、今日は帰るね」


「そだね。家まで送るよ」


「じゃあ甘えちゃいます」


 カホの腕をとり、身体を寄せながら帰路につく。


「あぁ、あったかい」




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