DEBU髭MEGANE
「ON A LAND」
「えっ?開いてる…?」
外から店内はうかがえないが、看板の電気も点いているし、どうやら営業中のようだ。
時間が違うからか、通路の両側のどの店舗も営業しておらず、その全てにシャッターが下りている。フロア全体に漂う陰鬱な雰囲気も相まって、余計に入り辛い。
「こわ…でもせっかくここまで来たしなぁ…」
意を決し、恐る恐る店内に入ると、外観からのイメージとは違い、ヨーロッパの美しい雑貨達に囲まれた、良い香りのする(私にとっては)夢のような空間だった。
「わぁ…」
「素敵…」
綺麗な装飾がちりばめられた、家具や食器やアクセサリーが、店内に所狭しと並べられている。それらをしばらく眺めていると、
「いらっしゃい」
店の奥から響く、太く優しい声。
振り向くとそこには、高く積もった雑貨の隙間から覗く男の顔があった。
「こんばんは、素敵なお嬢さん」
「きゃあ!!」
「わぁ!!」
びっくりした女の声にびっくりした男の大きな声に、高く積もった雑貨達が音を立てて崩れる。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「いえ、こちらこそ、大変失礼致しました。」
「驚かれるのは慣れていますが、驚いた声に驚いてしまうのはなかなか治らなくて…ハハハ」
照れながら崩れた雑貨を整理する店主らしき男。
歳は60くらいだろうか、太った大きな身体にモヒカンに黒縁メガネ、胸まで垂れる長いヒゲ。優しい目はしているが、確かに驚かれることは多いだろう…
「ちょうどコーヒーが入りましたので、よろしければお飲みになりますか?」
「えっ?あっ、はい!いただきます!」
…………
店の隅にある、装飾の施された、小さいが絢爛なテーブルに座り、コーヒーと、手作りクッキーをいただきながら会話に花が咲く。
ただ、会話といっても、彼女の、機関銃のように繰り出される身の上話に、店主の優しい相槌がたまに響くだけの、ほぼ一方的なもの。
粗暴な見た目とは裏腹に、繊細で柔和な、どこか中性的な匂いのする、不思議な男だ。
彼女の、長く、退屈な話もようやくオチに向かい出したその時、なんの前触れもなく、強制的にまぶたが落ちてきた。
「あれ…なんだこれ…」
決して抗えない、底なし沼のような、絶対的な眠気。
「ごめんなさい…こんな…どうしよ…」
上体を起こしていることも出来なくなり、テーブルの上の、空のコーヒーカップに顔から倒れ込んだ。
ぱりん!!がしゃん!!
「あらあら、どうされましたか?」
「急に…眠く…なっ…」
男が立ち上がったのか、ギシッと床がきしむ音がする。
「ふふ…とても楽しい時間でした。…安心して眠りなさい。
「…えっ…?」
渾身の力を込め重い首を上げたが、ゆっくりと近づいてくる男の眼鏡に間接照明の光が反射し、表情は窺い知れない。
「ふぁ…?…なに…」
切れた唇から血が流れ、そのまま深い眠りについた…
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