ON A LAND

髭猫

PROLOGUE

 ON A LAND


 プロローグ


 彼女は薄暗い部屋の中に居た。外に出ない生活がもうずいぶん続いている。


 ゴミだらけの、その部屋の真ん中に不自然に置かれたテレビに、お昼の情報番組の若い男女のキャッキャとしたやりとりが流れ、彼女はそれと対面するような形で、膝を抱えゆらゆらと座っている。


 しかし、その焦点はテレビに合っておらず、そのずっと先を見ているよう、いや、何も見てないようにも見える。


 髪はボサボサ、極端に痩せ、目は窪み、深く青黒いクマが掘られ、肌もひどく荒れていた。


「…ブゥー」


 …その部屋をよく見ると、かつては彼女がとても多趣味で行動的であったことがうかがえる。

 壁に貼られた、女友達との海外旅行での写真や、映画やロックバンドのポスター。枯れ朽ちてはいるが、手入れされていたであろう観葉植物。白骨化した鳥が入ってはいるが、素敵な装飾の鳥かご。苔まみれで、水も蒸発しきってはいるが水槽もある。


 ある瞬間から、この部屋自体が、呼吸することをやめたような、そんな空間。


 重く、堕落的。


 その淀んだ空気を切り裂くようにインターホンが鳴る。


「ピンポーン」


「…はい」


「ピザ屋ですー出前お持ちしましたー」


「…はい」


 扉は開けず、ドアポストから1万円札を渡し、お釣りを受け取り、ピザを玄関先に置いて配達員は帰る。

「あざしたー」


 この不自然なやりとりは、いつものことなのだろう、とても円滑に行われた。


 配達員がいなくなるのを確認し、少し開けた扉の隙間から、盗むようにピザを取り、鍵を閉める。ピザは開けもせずにそのままテーブルに置き、再びテレビの前に戻り座る。


「……………プゥ〜、ブッ」


 ON A LAND プロローグ

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