幸せ
おおみわ
全編
あるところに年老いた王様が治める国がありました。その国はとても大きく、強くかったので近くの国々から恐れられていました。そのため、戦争を仕掛けられる事はほとんどなく平和な国でした。
仲のいい兵士の二人がいつもの様に話していました。
「幸せだな」
「ああ、王様のおかげだ」
兵士達だけでなく、市民達も心からそう思っていました。
しかし、王様はとても厳しい人で、奴隷達は食べ物を住むところもろくに与えられずたいへんな仕事をいつもさせられていました。そうした奴隷達の中に一人の女の子がいました。その子は体が弱くて、仕事に耐えることができず、死にそうでした。
ある日のこと王様は死んでしまいました。年老いてからも王位を譲らず、無理していたのが原因でした。兵士達はとても悲しみました。
王様の息子が次の王様になりました。新しい王様はとても優しくて奴隷達にもきちんとご飯を食べさせ、住む家も与えました。一方でそうしたお金の多くは兵士達の食費を削ったり、市民達の税金を増やしたりして得たものだったので、多くの人が不満を抱きました。
ところが、奴隷達は幸せでした。死にそうだった女の子もきちんとご飯を食べて休むことが出来るようになったので、すっかり元気になりました。さらに、王様は奴隷達の仕事の量も減らしてくれたので、体の弱い女の子でも仕事をこなせるようになりました。
「幸せですね」
「あの王様のおかけだね」
そんな会話も他の奴隷達と出来るまでになりました。
市民達の間には不安が広がりました。生活が苦しくなり、万引きなどの罪を犯す人が増えてしまったからです。また、兵士達は食事が減ったことにより体が弱くなり、戦争が起きた時にきちんと戦えるのか、不安になりました。
そんなある日のこと、兵士達が弱っているということに気が付いた隣の国が、戦争を仕掛けてきました。兵士達は死力を尽くして戦い、なんとか国を守ることが出来ましたが、沢山の犠牲が出た上に、他の国にも弱くなっている事を知られてしまうこととなりました。そのため、兵士達だけでなく、市民達も戦争に怯える日々が始まりました。
そうした人々とは裏腹に奴隷達は幸せを噛み締めていました。恋人を作ったり、家族を持ったりすることが出来る程に生活に余裕が出来たため、女の子にも恋人ができ、その人と一緒に暮らすことになりました。
ところが、ある雨の降る風のない夜のことでした。女の子と恋人の家が火事になってしまいました。そのとき、女の子は恋人の子を身籠っていました。恋人は女の子を家の外に逃がす事が出来ましたが、あと一歩のところで家が崩れてしまい、死んでしまいました。女の子はとても悲しみましたが、赤ちゃんの事を想うと落ち込んではいられないと思い、自分を奮い立たせました。希望を強く持って生きようと……。
そうした思いとは裏腹に、その火事をきっかけに王国内は荒れ始めました。市民や兵士達の不満が爆発したのです。たくさんの奴隷たちの家が焼かれました。更に、市民と兵士が結託してクーデターを起こしました。彼らの中には王様の城の中の兵士からも多くのものが参加しました。王様の味方はほとんどいなくなってしまっていたため、殺されてしまいました。奴隷達は王様が大好きだったので悲しみに暮れました。
王様の弟が次の王様になりました。その王様は兄とは違い冷酷で厳しい人でした。奴隷達は住む家を奪われ豚小屋の様に酷い環境に何人もまとめて住む事を強要されました。食事も少なくなり、仕事の量も増え、以前の様な生活に逆戻りさせられました。年老いた奴隷など体の弱い者達が次々と死んでいきました。
そんな彼らを尻目に、市民達の間には平和が戻りました。生活に苦労するものが居なくなり、犯罪に走る者がいなくなったからです。兵士達も食事などの環境が整ったことにより、力強さを取り戻しました。そのおかげで、いくつかの国に戦争を仕掛けられましたが、連戦連勝することが出来ました。
女の子は希望を捨ててはいませんでした、しかし劣悪な環境下での過酷な労働は女の子の体を急速に蝕んでいきました。そしてある日、女の子は死んでしまいました。お腹は大きいままでした。
ある日のこと、戦争を生き抜いた二人の兵士がいつもの様に話していました。
「幸せだな」
「ああ、新しい王様のおかげだ」
幸せ おおみわ @o-tetsuya
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