第208話

 少し経って朱明は、今度は皇后様に呼ばれた。

 弘徽殿の母屋まで入るを許され、御簾越しではあるが相も変わらずの御様子で、妹の事を御喜び頂いた。


「以前今上帝と会ったであろう?……なのに私の処に来ぬとは、以ての外であろう?祝いの品は、今上帝より凄い物をやったのに……」


 とそれはお冠である。

 それは凄い物と言われても、何でも神山の梅と桃と桜で作った、それは肌に優しい化粧品だとか、お湯殿で使う薬だとか……神山でしか取れない絹で縫われた、夫婦の寝間着ねまぎだとか……現世では手に入らぬ物を頂いたが、男の朱明に違いが解る訳が無い。……だが先日母が訪ねて行って、暫く滞在して来たが、伊織の妻となった妹は、それはそれは美しくなっているというから、物凄〜く優れ物を頂いた様だ。


「申し訳ございません。主上様御寵愛はなはだしき皇后様ゆえ、縁者となってはおりますが、ご遠慮を申し上げました」


 朱明は本当の処を言った。今上帝の愛は半端無いから、縁者としての立場に甘えて、男の朱明がそう容易く頻繁にお目にかかっては、今上帝に申し訳ない気持ちがある。


「そういうものであるか?」


「……はい」


 朱明は神妙に頭を垂れた。


「そういえば神刀とかを見せてもらったぞ。そなたを一目で解ったとか?」


素直な碧雅は直ぐに受け入れて、話題を変えて言った。


「お恥ずかしゅうございます」


「……否、を今上帝しか抜けぬを、あれ程確りと把握しておるとは……そなた大した者である……いいか?は天孫が天より頂いた刀であるが、その血を継ぎし者しか抜けぬ……は大方のものが察しがいくが、天が認めた者しか抜けぬは、大概の者が解らぬ事だ……大概の者は天孫の血とは、その子孫に流れるは知るが、は人間には解らぬを知らぬからな」


「恐悦至極でございます」


「したり顔しおって……随分と力を持ったな……実に嬉しい」


 皇后様に喜ばれて、朱明は恥じらう様に俯いた。

 自分でも知らぬ内に、確かに内なるが解放され覚醒されている様だ。


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