第73話

 そしてこの神座かみくらに神を迎え、祈祷の祭祀を行う様になった。

 つまり神座は神を迎える場所であり、神に鎮座して頂く場所であるといっていい。


 ……つまり依り代という事か?……


 依り代といえば、物の怪を憑かせて調伏する少女ものとか、神のご神託を頂く巫女とかを思い浮かべるが、まさか自分が依り代といわれる存在と間違われるとは……。

 ……いや、朱色に輝く朱の痣が証し?ーって事は、実は知らない内に自分は依り代だったって事か?憑かれた者の記憶は無いらしいから、有り得なくもない。それに孤銀は妖狐で、確かに先は神使と約束されている事は、魚精王の金鱗の言葉で解っている。


 ……ガチかぁ……


 朱明はまさかまさかの額の痣に、我が家で言い伝えられていた以外の事が、存在しようとは思っていなかったから、ちょっとショックを受けたりしてしまう。


「……つまりは、依り代という事で?」


 修行僧姿の二人に案内されながら、朱明は兄弟子に聞いた。


「いえ……たぶん違うと存じますが、そこの処は我らも師匠から聞いてはおりませず……ただ今日、朱色に輝く額を持たれる、妖狐を従者と致す神座様がお越しゆえ、出迎えに参る様師匠に仰せつかりまして……」


 兄弟子は神妙に答えた。


「此処は夜になると、いろいろな物が現れますからな……実に失礼つかまつりました。私は妖狐の従者の事を聞いておらず……」


 弓使いと思しき五一は、恐縮して言った。


「そなたの悪い癖だ。人の話しを全て聞かぬ……今に痛い目をみるぞ」


 兄弟子は心配のあまり少し強い口調で言ったので、五一はムッとして兄弟子を睨んだ。


「実に……孤銀が本気になり飛びかかりましたならば、お命は無かったかと存じます」


 朱明が真顔で言った。


「……ただでは殺られぬ。この矢には呪を施してある……」


「五一よ。それはご法度だ。やってはならぬ……と言われておろう?それは邪道だ」

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