退塾の危機
私が嫌がっていた宿題の時間がやってきた。言いがかりをつけようと私は必死でZ先生に抵抗を挑んだ。
「私は宿題をやりたくないから反抗してるんです!この塾から宿題を廃止する方法はないんですか?」
「うん、それはちょっと、無理か、な」
「無理じゃないです!」
「だめです!」
「だめじゃな、あ!」
勢い余って、私は思いっきり太腿を机にぶつけた。バキッと嫌な音が教室中に響いた。
「あーーーーーーー!」
Z先生が小学生が囃し立てる様に、わざとらしく叫んだ。
私からさあっと血の気が引いていくのがわかった。これは私、取り返しのつかないこと、したかもしれない。さっきの叫ぶ様な大声はどこやら、私はか細い声でやっと声を絞り出した。
「ご、ごめんなさい・・・」
念の為、私は机が壊れていないかを恐る恐る確認した。幸い変な音はしたが、机自体は無事だった。
良かった。
心の中で安堵のため息を漏らす。
「壊したら、退学だから」
許してくれるのかと、思いきや再びぶっ飛んだ発言をするZ先生。
「え? 退学ですか?」
そんなに私、やばいことしたのかな?壊してないのに。
「うん、退学」
「退学とは言わないんじゃないでしょうか?」
「まあ、確かにじゃ、退塾?あー、でも退学はやり過ぎかあ」
「弁償ですか?」
「いや、弁償はいいけど、宿題を大量に出そっかなー」
そ、そっち!?いや、弁償にならなくて済むならいいけど、宿題大量の刑!?
「そんな塾、聞いたことないです」
「だろうね。でも、ここの塾のルールだから」
「え?そんなの、聞いたことないですけど、いつ出来たんですか?そんなルール」
「さっき」
「じゃあ嫌です」
「無理。ちゃんと机壊しそうになった罪を償ってもらうから」
「先生、それって単に宿題を私にやらせたい言いがかりをつけてるだけですよね?」
Z先生は何も答えず、ただ「バレたか」という顔をして笑っていた。
「でも、宿題はちゃんとやってもらうから、罰として」
「だからいやですって!」
「塾長に報告だ」
「っていうか宿題をやるって法律ではないじゃないですか?」
とりあえず、はぐらかす為に法律に話を持って行った。
「んー?ここでは法律だから」
「でも、日本国憲法には宿題をやらなかった人は罰せられるって書いてありませんよ」
「いや、書いてあるよ日本国憲法に」
「じゃあ、大何条ですか?」
「えーーーっとねえ・・・忘れた」
「でしょうね!だってそんな憲法ないですもん!私、夏休みの宿題で憲法全部書き写すやつが出たんですけど、そんなの一言も書いてありませんでしたからね!だから私は罰せられないんです! 宿題をやる義務なんて私にはないんです!」
「いや、ここでは義務なんだなー。でも考えてみ?日本の学生は皆宿題って出されたらやってきてるんだよ?なのにどうしてお姉さんはやろうとしないの?」
「っていうか宿題なんて誰が作ったんですか?」
「知りません」
「宿題作った人、訴えたいんですけど!」
「勝手にどうぞ」
冷ややかに言い放たれた。
「だったら先生も宿題出すのやめて下さい」
「やです」
「なんでですか!?」
「俺はお姉さんのことを思って出してあげてるの?ねえ?ねえ?聞いてる?」
どこかで聞いたことがある台詞に私は再び爆笑せざるを得なかった。
しばらく爆笑が止まらず、ろくに話すことが出来なかった。
「とうとうおかしくなっちゃったか、お姉さんも」
「私は凡人ですから」
「いや、お姉さんは普通じゃないから。だってお姉さんくらいだよ?この塾で宿題抵抗してくるの?恥ずかしいと思わないの?」
出た!「他の人はちゃんとやってるよ作戦」!私はその作戦にも騙されなかった。
「全然。逆に誇りに思います!」
そう言い放つと、Z先生はわざと大きなため息をついて、呆れた表情を作って見せた。
「これは塾長に報告だー」
「いいですよ、もう!勝手にどうぞ!」
「あっそ!じゃあもういい!塾長に宿題渡してもらうから」
「とか言って、前もそうしなかったですもんね、先生。冗談ですよねー」
バレたか。と言わんばかりの笑みを見せるZ先生。つられて私も声をたてて笑った。
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