私にはパワーがみなぎっている

 ここでちょっとZ先生のことは置いておいて海外で私が見たことの話をしよう。

 Z先生は全く関係ないのだが、一応私の人生をかえるきっかけたちが潜んでいる話だ。


 私たち家族が赴いた異国の地。それはハワイ島だ。

当時は海外に行くということを言うのが恥ずかしくてZ先生にはどこに行くのかを内緒にしていた。そして今でも彼は、私が中二の最後のあの時にハワイに行ったということはずっと知らないままだ。


 正直私はハワイ島行く気などみじんもなかった。なぜならその分、Z先生と過ごせる時間が削られてしまったから。理由はただそれだけ。幼い子供の様なわがままな理由だったが反抗期気味だった私にとってはこのハワイ島旅行はちょっと嫌なものだった。

 なぜ私の両親があの暑いハワイ島を家族旅行に選んだのかは今でもわからないが、とにかく両親は私との時間をとても大事にする人たちだった。今海外に一人でいる身としては家族の大切さが痛いほどわかる。でも当時はそんなことには気がつけずにいた。飛行機に乗ってからもちょっぴりふてくされている自分がいた。

 

 しかも飛行機に乗ると気持ちが悪くなってしまう私は初日のハワイ旅行が最悪になることを予感していた。予感は見事に的中してしまう。


 飛行機に乗るとすぐに酔ってしまい、初日から飛行機に乗った後の吐き気の余波を気にして、最初は最悪な旅行だった。最初の一日だけは。着いた頃から30度を超えたハワイ島は、今にも吐き出しそうな私にとっては極悪な環境だった。だからその日はほとんどホテルで眠って必死で吐き気を落とそうとしていた。

 

 最悪な一日目ではあったがそれ以降は意外と楽しいハワイ島旅行だった。


 あれはハワイ島の洞窟に行った時の話だ。

 せっかくハワイにきたのだからツアーに行こうという話になり、ハワイ島を一周するツアーに参加を申し込んでいた。そしてツアー当日、バンに乗ってハワイの地を巡った。初老で元名誉大学教授だというガイドさんと数組の観光客と一緒に。


 その時、たまたまある程度は名の知れた洞窟に立ち寄った。残念ながらもうその洞窟の名前は覚えていないのだが。その洞窟に入ろうと多くの人だかりができていた。


 私たちツアーの一行も洞窟に入ろうと人だかりをかき分けながら前へ進んだ。

 そして洞窟の入り口になんとか入ることができ、なんとか暗い洞窟の先を進もうとした時のことだ。ガイドさんが無口で影の薄かった私に声をかけてきた。

「洞窟の壁に手をかざしてみて下さい。そうすることによってその人がどれだけパワーを持っているのかがわかるのです。特に若い人にはよく見えるんですよ」

 パワーか。そういえば、私今年受験生だっけ。今はもう勉強とか人間関係で疲れ切ってるし、パワーなんてないでしょ。

 そう思いながらもガイドさんの言われた通り、自分の手を洞窟の壁に置いてみた。

 すると何が起こったのか。


 自分の手に激しいオレンジ色の光がはっきりと見えたのだ。

 それも一瞬ではなく。手を洞窟に触れさせている限りははっきりと目に見えていた。今でもあの激しいオレンジ色の光は私の脳裏にしっかりと張り付いて離れることはない。


「ほら、言った通りでしょ。若い人にはまだ力があり余っているから、こうやって強いオレンジ色の光が見えるんです。ほら、他の人もやってごらんなさい」

ガイドさんに言われた通り、周りにいた大人たちも洞窟に手を触れる。確かに彼らにもオレンジ色の光が宿っていたが、明らかに私の光よりは薄れた色だった。

 両親も手をかざしてみたが、周りの大人と同じだった。二人に「すごいじゃない!」と言われて少し自分が誇らしくなった。


「他の大人の皆さんはちょっと力が弱いでしょ。あなたはまだ若いから力強いパワーがみなぎっているんだよ。だからほら、自信を持って勉学に励みなさい」


 私が受験生だとガイドさんには行っていなかったのに、自分のこれからを励ましてくれる様な大切なメッセージを受け取った。


 そうだ、私にはパワーがみなぎっている。

 そのパワーをパワーがある限り、すべて使い果たさないといけない。

 なぜか生きている間にパワーを使い果たすという使命感に駆られた。

 今の私なら限界を超えることができる。

 だからもっと勉強して、死ぬほど勉強して、絶対に自分の夢を叶えるんだ。


 そう自分に誓った瞬間だった。


 そしてその次の日の夜、ハワイ島は星が綺麗だ、ということで天体観測ツアーに参加することにした。一度ビーチで日の出を見てから、バンに乗って星空が見える野原へ向かった。私たち家族が申し込んだのは大きな団体のツアーではなく小さな個人経営のツアーだったので私たちが向かったのは星がよく見える観光名所ではなく、ただの野原だった。バンで野原に向かっている途中にすでに日本以上に綺麗な星空が見えていたことを今でも忘れていない。

 昼まではあんなに暑かったのに夜になると、しかもこの野原は逆に寒くてコートが必要だった。


そして名もなき野原に着いて、バンを降りた。

降りた瞬間に広がっていた景色。


 宝箱から宝石を一気に散りばめた様な星空だった。日本では全く見えない様な無数の星たちが姿を現していた。広い大空、どこを見回してもあたり一面に美しく輝く宝石たちが輝いていた。まさにこの日は大当たりだった。


「最近は天気が悪くて昨日までずっとキャンセルの連絡をお客さんに入れていたんです」


 安堵の表情でそう語りかけるガイドさん。

 ガイドさんからは一袋のポテトチップスと甘いココアをもらい、それらを楽しみながら夜空に浮かぶ宝石たちをずっと見回していた。両親と一緒に「綺麗〜!」の一言しか言いあえずに、ただ黙って立ち尽くした。


「今から星たちの解説を始めますね」

そう言ってガイドさんが何か緑色のビームが見える懐中電灯の様なものを取り出す。

その謎のトーチで星空を照らすと綺麗に反射して、その星を解説しているのかがよくわかった。はっきり言って日本のプラネタリウムよりもあのハワイの夜空はずっと美しかったし、星の勉強をするのであればプラネタリウムよりもいっそハワイにきて夜空を観察した方がずっとお得なくらいだ。


「あそこに牡牛座見えますかね、あの大きいやつ。あそこにね、とっても綺麗な星の集団があるんです。平安時代の人たちはその星の集団をすばるって呼んでいました。

そこには生まれたばかりの星たちが集まっているんです」

 望遠鏡で観察をしてみると確かに無数の星たちが一気に集まってるのがよく見えた。あの無数の星たち一つ一つの中にもまた無数の星たちが集まっているのか。そしてまたあの小さな星一つ一つの中にも無数の集団が・・・。これこそ無限っていうんだろうな。星って果てしないな。「あの星たちは、何光年以上もの月日をかけて私たちに見える光を届けてくれているんです。ほら、あそこにある星。あれはベテルギウスっていうんですけれども、あれが一番光を速く届けてくれている星。戦国時代くらいに出発した光を私たちに届けてくれているんです。つまり、私たちは織田信長が生きた時代の星の光を見ているんです。」


織田信長の時代の光。そうか、この瞬間に織田信長と繋がれているのかな。

今は会えない人たちと繋がる方法、今わかった気がする。

心の中でそう呟いた。


他にもガイドさんは私たちにたくさんのことを教えてくれた。

星のことも、星ではなく、人生において大切なことも。


星のことを一生懸命解説するガイドさんの顔は天空の星たちに負けないくらいキラキラと輝いていた。


 そんな彼の嬉しそうに星を説明する姿はとても印象的だった。

 そしていよいよ深夜の12時を過ぎ、更に寒さが増してきたので野原を後にすることになった。

 あの美しい宝石たちが名残惜しくて何度バンに戻ることを渋っていたのだろう。それは両親だけでなく、その場にいた誰もが私と同じ気持ちだった様だ。

 何度も星空を見上げながらバンの席に戻った。

 

 そして帰りのバンのなかで私の父と星の説明をしてくれたガイドさんは絶えず人生観について語り続けていた。中二だった私にとっては理解が少々難しかったのだが。


「人生ってね、星みたいなんだよね。みんな一つ一つの人生がある。そして一つ一つの人生はね、星みたいに輝いているんだよ。なのにその輝きに気がつけない人なんていっぱいいるのさ。本当にもったいないよね。お姉ちゃんはそうなっちゃだめだよ。好きなことを見つけて楽しく生きるんだよ」

 

 バンの中でそうガイドさんに言われたことを今でも忘れていない。


ハワイ旅行で二人のガイドさんに私の人生を後押ししてもらった。


私にはまだパワーがみなぎっている。


人生は星みたいに輝いている。


だから、ここで諦めちゃだめだな。そうだ、ハワイから帰ったら受験勉強頑張ろう。

そして自分を変えてやるんだ。


そう思った。そしてハワイから帰ってから、私は本格的に勉強に集中し始めたのであある。


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