第七節 正式入部!
澪は来栖先輩に引き続き美術部の部室に入った。有華やサーシャが笑顔で出迎えてくれる。
文句を言っていた部員たちは、澪に会釈するか、絵に集中していた。
どこにも居場所がない頃に通わせてもらっていた、いつもの美術部だ。
でも、一つ違うことがある。
私も今日から正式に美術部の一員になる。
「戸川が……入部することになった」
来栖先輩の言葉にどよめきと祝福の声が上がる。
恥ずかしい思いをしながら、澪は入部希望者として美術部の奥の教員室へと入った。
そこは澪にとって初めて入る場所だった。
狭い中に沢山の絵がひしめいている。強い油絵具の匂いが鼻をつく。
その中心に清川先生はいた。意外なことに画集などではなく本を読んでいた。
中は外国語の本でもちろん澪には何を読んでいたかは窺い知れない。
「清川先生、入部させてください」
精一杯の勇気を振り絞って澪は清川先生に意志を伝えた。
「……名前は?」
「戸川澪です」
清川先生はサングラスを外して澪の顔を見た。
「ああ、雀の子か」
サングラスでわからなかったが、清川先生は意外と綺麗な細面の男性だった。昔はさぞ美少年だったのではないだろうか。
澪はそんなことを思いつつ顔を見つめられているのにドギマギした。
清川先生はすぐにサングラスを付けると、澪にスケッチブックを手渡した。
「君、描きなれてないから。とりあえず、デッサン!このスケッチブックをすぐに埋めること」
「は、はい!」
文化部ではなくて、ここは体育会系では……?と澪は今更ながら思っていた。
こうして、澪は正式に美術部に在籍することになった。
後から教員室に顔を見せた草間部長も喜んでくれた。
しかし、澪は例の謝罪の一件で草間部長が働いてくれたお礼を言えなかった。裏で澪にはわからないように動いてくれたのだし、言い出すのは無粋と遠慮の念が生じた。
草間部長は何事もなかったように、ずっとニコニコしている。
こんな人になれたらなぁ……と澪はひそかに思った。
あの恐ろしい清川先生にも草間部長は今も「きよピー見てみて」と自分のスケッチブックを渡して「ゴミだね」と一蹴されても微笑んでいるのだ。
実は草間部長が最強なのでは……と思いながら、澪は教員室を出た。
有華がご機嫌で「何描く?スケッチしに行こー!」と目を輝かせて澪の手をひく。澪もはやる鼓動を隠しきれず不自由な足を物ともせずに笑顔で校舎を巡った。
高校二年生の秋。
遅まきながら、澪の美術部生活はここから始まった。
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