006 何にも魅力ってあるよね?

 翌日。きちんと2限を受けて昼休みの学食で蒼は康太郎たちと食事をしていた。

 昼の学食は激戦区と化すため、講義が終わると一直線に向って席を確保。そのおかげで全員一緒に着けていた。

 

「いやはや、意外と見つかんないもんだな」

「私の運が利いていない……」

「いえ、適応されていると思うわよ。結構絞ってるみたいだし」


 彼らはイベントについて話しているようだな。

 初日で手探りであるが、どうやらボスの湧きが渋いようだ。


「初イベにしては渋いんだな?」

「そうね。まあ、あの運営がすることだし乱獲されるのは好ましくないってことじゃないかな」

「レベルが低いほど遭遇率が上がっているのではと攻略班が言ってたよ」

「先にいる人たちからすると、今回のイベントはそれほど旨味があるとは言えないし別にいいけどねー」


 そうなのか。ああ、でも意外とリリース後のイベントって初心者ブーストの報酬多めだから割と納得できる。

 

「その様子だと蒼はまだイベントに参加どころか、内容も碌に見てなさそうだな?」

「ご名答。昨日は早々に出鼻をくじかれたものでな。各種確認と軽く戦闘をして終わったよ」

「ならしばらくは金策とレベル上げ?」

「ああ。やはりイベントは終盤にちょっと触れるくらいと見ている」


 啓子への返答に、皆納得とばかりに頷いていた。

 どうやら、初期投資は誰しも通った道のようだな。


「武器やらスクロールがどれもやたら高いんだよ。基本的に戦闘職は初期武器持ってんから節約できるが、魔法師や弓士は序盤から結構金持ってかれるぜ」

「攻撃魔法スキル取得や矢にもお金がかかるものね」


 魔法師は杖、弓士は弓を支給されるわけだが、それぞれ直接的な攻撃手段ではないので、経費が霞むのも必然と言えよう。


「初期は費用対効果が低いよね。遠距離ジョブの定めとも言えるけど」

「まあ、それも混みでやってるっしょ。どうせしばらくしたら、向こうさんのぶっ壊れスキルが出てきて一強と化すまで見えてる訳だし。接近して戦うのが怖いって人にも向いているしね」


 ゲームはしたいが相手を倒すことに抵抗があると、確かに遠距離を選ぶ傾向があるよな。

 まあ、だったらやるなって声も一定層湧いてくるが、人様のプレイスタイルに口を出すなという話である。また、遠距離系のジョブはある程度スキルが育ってくると大火力を叩き出すのはゲームをやる人であれば耳にしたことがあるだろう。そのうち、例にもれずやってくる時期はあると見て選ぶ人も多いとか。

 カルボナーラをフォークに巻き付けながら、蒼は彼らの話を聞いていた。


「で、蒼。どうせしばらく会えないのだし、答え合わせさせてよ。ジョブは何にしたの?」


 同じくパスタ(ボロネーゼ)を食べている琢磨が尋ねてきた。特に隠す必要がなくなっているからな。


「ああ。メインが占い師、サブが盗賊だ」


 俺がそう答えると、彼らは食べる手を止めて唖然とした表情でこちらを見てきた。

 この反応は、占い師が外れジョブだったということだろうな。


「聞いてきてその反応は無いだろう?」


 表情が戻った彼らだが、納得できなそうな顔をしているのはだから何故だ。


「いや、なんか以外というか」

「てっきり、道化師かダンサーを選ぶと思っていました」

 

 道化師は確かスキル使用時にMPが増加代わりに威力上昇補正。ダンサーは回避に補正だったな。

 確かにどちらも俺の戦闘スタイルに合致しているし、かなり迷ったものだが。


「水晶玉には勝てなかった」

「何言ってんの?」

 

 いや、本当に。自分でも何を言っているのだろうか。とはいえ、水晶玉が好みの武器であったのは事実。その魅力に負けたのだ。

 啓子が怪訝な表情でこちらをのぞき込んでいるが、無視して残りのパスタに手を付ける。

 

「ちなみに、何故そこまで驚いたのか理由を知りたいのだが?」

「あの後に俺らもEXジョブについて調べるようにしたんだが、やっぱりどれも曲者でなぁ。そのなかでも不遇じゃねーかって言われてんだよ、占い師」


 康太郎の言にそうそうと頷く一同。


「一見バランス崩壊を引き起こしかねない【未来視】ですが、試してみると碌な情報が出てこないうえ、使用時に硬直が発生し戦闘中に攻撃を受けてあっけなく死亡。専用スキルは現状これだけで、他のEXに比べてジョブレベルを上げても新たなスキルの習得ができていない。武器も制限されるとなれば必然に使う人も減ります」

「ああ、【未来視】の硬直は驚いたな。俺は戦闘中に使わなかったが、確かに危険だ」

「で、どうだったの?」

「まだ一度しか使用してないから何とも言えないが、特段虚仮にするほど弱くないとだけ言っておく」

「けちー」


 情報を絞ったので、啓子が剥れた。逆に琢磨と鈴香は思案になっている。俺の言葉の意図を読んでいるのだろう。


「蒼がそう言うってことは……」

「ええ。つまり、蒼は【未来視】の可能性を見ているということですね?」

「それほど俺は【未来視】を使うつもりはないが、現状酷評されるほどのものではないと思っている」


 変な予兆を見せられているが、きちんと手掛かりを貰っているので要は使い方次第なのだ。講義中に気付いたことだが、俺は感動していたあまり碌に考えもせず森へ向かってしまっていた。もう少し情報を集めてからでも遅くはなかったのだ。

 このゲームは本当に第二の現実といっていいクオリティをしている。つまり、現地人に尋ねるという方法をすればよかったのだ。TRPGプレイヤーにあるまじき行動であった。

 

「というわけで、スキルやらジョブについては俺が好きで選んだものだ。特に不満はない」

「本人がそう言うなら、僕らがあれこれ言うことはないね。まあ、何か面白いことが分かったら教えてほしいかな? 単純な興味として。勿論未確認情報ならば発信するかは蒼の許可を貰うよ」

「まあ、気が向いたらな」

「この隠し癖を無くしたらほんといい子なんだけどなぁ……」

 

 啓子は何を言っているのだろうか。俺の母親か?


「そういや、最前線からの情報でもうすぐ第三の街が解放できそうって言ってたぜ」

「ほう」

「まあ、順当だね」


 確かに時期としてはちょうどいい方なのだろうか。運営側はイベント終了くらいまで粘ってほしいと思っている気もするが、前線組からするとわざわざイベント参加するほどでもないのだとすればワールド攻略に力を入れるのが無難だろう。


「おっと、そろそろ時間だな。俺は次遠いから早めに行くわ。また後でな」

「おう」「いってらっしゃい」


 大盛りのヒレカツ定食を真っ先に平らげていた康太郎は、トレーを手にして返却口に向かっていった。

 次の講義は俺と啓子、琢磨と鈴香のペアで同じだ。場所も近いのでそこまで慌てることはない。


「みんな食べ終わったことだし、僕たちもそろそろ行こうか」

「そうね」


 蒼たちもトレーを手に返却口へ。

 コンベアーにトレーを載せると、学食を出て次の講義に向かった。

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