第9話 結界の外の森 前世のお話 元夫だったわ
結界を通らなきゃと思っても、先にある森があまりにも不気味で歩き出すのを
「キャ~。何を」
言っておくけど、お姫様抱っこではない。
父親等、男性の保護者が小さな子にする縦抱きの抱っこだ。
「耳のそばで悲鳴を上げるな。早くこの国を立ち去らねば、次の処分が下るぞ」
そう言って結界をぶち破り、森の奥に進んでいく。
「しかし、うちの国境は相変わらず何もないのだな」
あ……結界、見えてないんだ。一部、壊れてしまっているけど、あれくらいだったら自動修復するよね。
「瘴気の森が他国から我が国を護っていると団長は言っていたが、この森も普通の森ではないか」
あ~、うん。私たちがいる半径10メートルくらいはね。
何もしてないのに、瘴気が払われていっているもの。
さっきのお役人さんも、『瘴気が薄いところ』って言ってた。
瘴気も薄かったら普通の人には見えないのかなぁ。
でも、癒しの力の光は見えているって事は……どうなんだろう?
「ダグラスは私の手から出た光、見えてるの?」
「ああ。何か光の雫が落ちて、光が全体に広がっていく感じのものだろ?」
私は『手から出た光』としか言っていない。なのにそこまで詳細に言えるって事は見えてるんだ、じゃぁ、なぜ?
「驚いた様子が無かったから、見えてないんじゃないかと思って」
ダグラスは、少し困ったように頭を掻いて言う。
「う~、まぁ。知っていたから……な」
前にもこんな仕草……いや、ダグラスでなく、前世の夫も困ったときにこんな仕草していたような……。いや、まさかね。
「今日はここで、野宿ということになりそうだな」
ダグラスは、私を地面に降ろしながらそう言ってきた。
自分の荷物から、色々出している。
見た目よりたくさんの物が詰まっているって事は、ダグラスが持っているのもマジックボックス?
私がジーっと見ていると、ダグラスは私に小さな箱とパンを渡してきた。
「弁当だ。食べたらいい」
そうして、自分も弁当箱を開けて食べている。
この世界のお弁当は、バスケットに入っているピクニック用しかない。
後は、兵士や騎士が遠征で持ち歩く革袋に入っている干し肉やパン。
私はそおっと弁当の蓋を開けた。
さすがにご飯は入っていないけど、卵焼きにウインナーやお肉……まさか、日本人なのでは?
「この世界に、卵焼きは無かったように思いますけど……」
「え? そうなのか?」
きょとんとして訊き返している。
「あ……の、ダグラスも日本人なの?」
なんだか、ばつの悪そうな顔をしている。職務中のダグラスはもっと要領の良い人間だったはずだ。
「あの……な。怒らずに聞いてくれるとありがたいんだが」
「はぁ」
別に日本人だからって怒ったりしない。多分、あの学園での夜会以前に日本人だと言われていても、前世の記憶の無い私は、何のことやらって感じだったろうから。
「確かに俺は日本人なんだが、ここに来る前に白い空間で光の玉に言われたんだ。お前が、この世界に召喚されるから手助けをしないか……と」
「召喚? 私が?」
「ああ、でも、いざ召喚された少女を見たらあのバカ女で……。困惑していたら、俺が出入りしていた親戚筋の公爵家の令嬢が……その、里美の生まれ変わりだと分かって」
「ちょっと待って、あの光の玉。私が召喚されるって言ってたのね」
「ああ。ひ孫か何かがあの乙女ゲームをやらないかと勧めてなかったか?」
「100歳にもなる年寄りがするわけないでしょう? そんな乙女ゲームなんて。馬鹿なの? あの光玉」
間違って召喚って、私と間違ってあの娘が召喚されてしまったって訳なのね。
私はため息を吐いてしまった。
「……で? あなたは? ダグラス」
何か、嫌な予感しかしないのだけれど。
「前世で園山里美と夫婦だった実だよ」
ダグラスは、凄く言いにくそうに私に自分の前世での名を告げた。
やっぱり……元夫だったか……。
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