46.結末

 レイモンド・ルラ・バイエベレンゼ・ガンスロット。

 王宮騎士団の団長である。

 彼は国家転覆を企て玉座を狙ったが、失敗。しかし革命の件は民衆には伏せられている為に、その罪で問うことは出来ない。

 禁忌の薬を使い部下の王宮騎士や聖女達を操ると、王都に魔石を置いて今回の事件を引き起こした。更に偽証言をさせた王宮騎士を二人、毒によって殺害している。

 断罪の場にて兵士を魔獣化させ国王の命を狙う。

 病死となっているが、実際は毒杯にて処刑された。



 エーヴァント・ボーンチェ。

 ボーンチェ公爵家の次男であり、アデリナ王女殿下の婚約者である。

 レイモンド・ガンスロットに担がれて革命を起こそうとするも失敗。事件の首謀者としてグレイシア・アーベラインを糾弾しその名誉を著しく貶める。

 今回の事件ではグレイシア・アーベラインをイルミナージュ王国にて監禁、暴行。その罪に加え、バイエベレンゼでも同じように平民の娘や奴隷の娘を暴行し死に至らしめていた。処刑されるのが妥当であるが、遺族に対してボーンチェ公爵家が充分な賠償をしている事、エーヴァントを平民へ放逐した事もあり、西の辺境にある砦で従軍する事を罰とする。ちなみに西の辺境にある砦は乾燥地帯でその環境は過酷。従軍した兵士で初年度を生きて越えられるのは半数以下である。



 アデリナ・エラ・バイエベレンゼ。

 バイエベレンゼ王家第一王女であり、次代の女王であった。

 王宮騎士が告げた偽の証言により、その真偽を確認する事も無くグレイシア・アーベラインを断罪。国外追放しようとする。

 その短絡的な思考、その他のふるまいからも次期女王として相応しいとはいえず王位継承権を剥奪される。離宮にて幽閉となっているがその期間は定まっていない。



 聖女。

 神殿に仕える、バイエベレンゼの守護を司る聖女である。

 レイモンド・ガンスロットに篭絡され、言われるままに魔石を王都に持ち込む助力をする。他の聖女達にもレイモンド・ガンスロットに命ぜられるまま、禁忌の薬を与えて意思を奪い、操っていた。

 操られた聖女達と共に、聖女としての力を封印され神殿にて幽閉される。




 報告書を読んだグレイシアは、ふぅと息をつく。

 それぞれに下された罰は決して軽いものではない。しでかした事を思えばそれも当然だろう。

 しかしまさか自分がこんなにも中枢部までに関与する事になるとは思わなかった。巻き込まれただけなのだが、リオレイルが居なかったら逃れる事も叶わなかっただろう。

 本当に家族で出奔しなければならなかったかもしれない。



 ここは王都にあるアーベライン侯爵の屋敷である。

 社交シーズンも終わり――グレイシアは一つも参加しなかったが――、グレイシアも両親と共に領地に帰る日が近付いている。

 リオレイルは既にイルミナージュ王国に帰還している。第一騎士団長である彼は、長く国を空ける事が出来ない。カイルとセレナも共に帰ってしまったので、グレイシアは一抹の寂しさを感じていた。



「あらあら、グレイシアったら寂しそうな顔をしているのね」


 向かい合うソファーに座る母が肩を揺らす。グレイシアは手にしていた書類をテーブルの上に伏せると、すっかり冷めてしまった紅茶のカップを手に取った。

 口に含んだ紅茶は美味しいけれど、どこか物足りない。


「そうね、寂しいのは否定しないわ」

「リオレイル君が帰っちゃったからでしょう。でも心配しなくていいのよ、領地のお屋敷にも転移の魔方陣が組んであるから。リオレイル君ならいつだって来れるわ」

「初めて聞いたわ、そんな事」

「あなたに会わないようにわたし達も気を遣っていたからね。彼は時々お屋敷に来ては、あなたの様子を見ていたのよ。彼が十八になってすぐ、婚約を願い出るとは思わなかったけれど」


 母の言葉に、顔に熱が集うのを自覚する。求められている事を実感する度に鼓動が早鐘をうつのだ。これに慣れる時はくるのだろうか。


「騎士団長になったのも、あなたの為よ」

「……それは、わたしが『騎士様の制服が素敵』だと、そう言った事に関係しているの?」

「ええ。ベルント達にあなたが昔、言っていたでしょう? それをベルントがリオレイル君に教えたのね。そうしたら魔法学園をあっという間に卒業して、騎士学園に入るんだもの。びっくりしたと思ったら、騎士団長にまでなっちゃって更に驚いたわ」


 朗らかに笑う母とは裏腹に、グレイシアは内心で愕然としていた。

 自分が何気なく言った言葉で、彼の進む先が決まってしまったというのか。


(確かに騎士服は今も好きだし、リオンにはとてもよく似合うと思うけれど! 魔導師のローブが素敵なんて言っていたらイルミナージュで筆頭魔導師になんてなっていたのかもしれない。いや、ローブもきっとよく似合うけれど……)


 グレイシアの動揺を読んだ母は、侍女に目配せをして新しいお茶を用意してくれた。冷めたカップは下げられて、湯気立つカップが用意される。有難くグレイシアはそれを手にした。


「変な事は気にしちゃだめよ。彼には選択肢が沢山あって、そのどれも選ぶ事が出来たのよ。その一つを選んだ切欠が、あなたの言葉だっただけ。リオレイル君は何も後悔なんてしていないと思うわ」


 有能すぎるのも考えものね。

 母は言葉を足してくすくす笑う。


 今は側にいない婚約者を想うだけで、グレイシアの胸は高鳴る。

 逢いたい、とそう思った。

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