第4話努力と才能
翌朝、何気なく覗いたアクセス解析はやはり地を這っていた。
アイツはすごいんだろうな……と由似の投稿ページを閲覧する。
やっぱ面白いな。
本来でないところに出てきた強いモンスターをFランクが討伐する話だった。
お約束と言えば聞こえは悪いが王道ど真ん中をいっている。
ポイントは……あまり人のポイントを見ないようにしているのだが、やはりリアルで知り合いとなるとそのポイントに興味が出る。
俺は検索ページを見ると……四桁のポイントがついていた。
あまりの実力差に「勝てないなぁ……」と少し心に苦味を感じながらブラウザを閉じた。
さあて、行きますか。
朝食を食べにキッチンに行くと里奈はもうちゃんと起きてしっかり朝ご飯を作っていた。
それを眺めているとできあがった朝食を手に俺のところへ駆け寄ってきた。
「ふっふーん! お兄ちゃん、私、ポイントがつきました!」
どうやら自作の小説にブクマか評価がついたのだろう、羨ましい限りだ。
「お兄ちゃん! 気になりますか! 気になるでしょう?」
気にはなる、とはいえコイツの文章を読んで俺のプライドがズタボロにされる可能性もある。
さて、どうしたものだろうか……と思っているとスマホこちらに向けてきた。
「積極的なお兄ちゃんに迫られてます!」
という身も蓋もないタイトルが表示されていた、内容によっては十八禁送りに会いそうなタイトルだ。
その指の差す画面には2ptと表示されていた。
初めてのポイント、それはとても嬉しいものだ。
そして俺がそれに目がくらんだ自分が嫌になってやめたもの……
気が付くと妹の頭をなでていた。
「その気持ちを忘れるんじゃないぞ……」
里奈は照れながらも俺のいっていることがどういう意味かは分かっていない様子だった。
――登校――
「でね、私の作品に目をつけるのはとってもいいセンスしてると思うんですよ!」
「そうだな」
自作に初めてのポイントがついたことですっかり舞い上がる妹を前に、自分にもそんな時期があったことを思い出す。
するとそんなところへ陽気な挨拶と控えめな挨拶がした。
「おはよ! 里奈ちゃんなんか良いことあった?」
「おはよう、里奈ちゃん嬉しそうだね」
由似と阿智が問いかけてくる、どうやら第三者から見ても里奈は浮かれていたらしい。
「え? 私そんなにわかりやすい?」
「とっても」
「すごくわかりやすいよ」
ズーンとテンションが下がる里奈、本人からすればポーカーフェースだったらしい。
まあわかりやすいわな。
「え? ポイントついたの? すごいじゃん!」
「すごいですね」
二人ともそれなりに褒めてくれた、そこから先の長い長い道のりについては今は気にする必要は無いだろう、今はこの気分の良さを存分に味わっておくといい。
その日は里奈は一日上機嫌だった。
――それはさておき。
「今日のも面白かったよ! 感想欄がないのがもったいないと思う!」
「感想欄なあ……あれ実装面倒なんだわ……」
「素直に既存サイト使えば良いのに……」
それはしれっと聞き流した
いや、だってさAWS便利じゃん?
一発でインスタンスへ接続できるしさ……
VPSの手間考えると優秀なんだよな……
とはいえ如何せんこのSEO全力時代の中、個人で立てたサーバにアクセスなんてほとんどない物だ。
なので由似の感想はとてもありがたい物だった。
そんなわけで授業を受けているとき、次の展開を考えていた。
ヤンデレモードに戻すかなぁ……
などと窓を眺めながら考えていた。
途中指されて答えに困ったりもしたがなんとか答えられて無事昼休みを迎えた。
「で、ですね! 私はお兄ちゃんに襲われる展開を考えてるんですが……」
もちろんリアルでの話ではない、里奈の小説の今後の展開についてだ。
「うーん、やり過ぎると十八禁送りに遭うよ?」
「過激なのはどうかと思うよ……」
由似と阿智は穏健派のようだ、まあそりゃあ運営というルール執行者がいる以上それに従うほかないんだよな……
そうして俺抜きで作品談義が始まった。
「あのシーンは……」
「でも兄妹なんだから……」
などと喧々諤々の議論をしているのをみながら、手元のスマホでAWSインスタンスの負荷を確認した、悲しいことにやっぱり地を這っているのだった。
――放課後
「お兄ちゃん、私の小説、読んでください!」
意を決して妹がそう言った。
そう、「妹」が「兄」についての小説を読んでくれと言ってきたのだ。
俺なら恥ずかしくてとてもできないが里奈は全くもって平気らしい。
部屋に戻りスマホを取り出し、妹の書いた小説へのリンクを眺める……
待ってたって始まらない、読んでみるか。
数分後、俺は絶望していた。
上手い、話の運びが圧倒的に強い。
自分の書いてきたものはなんだったんだろうかというくらいに文章が上手だ。
「コイツこれが初めてとかマジか……」
俺はそう言ってベッドに倒れ込んだ。
なんだか俺は天性のものというものを恨みがましく思った。
それでも何とか体を起こしPCの前に座る。
いつも通り一太郎を起動して「ヤンデレ妹」の続きを書く。
カタカタ
俺はとてもやる気が起きなかった。
それでも筆を進めていく、わずかばかりのアクセスのために。
そして何より『自分が書きたいから』
歪んだ愛と言われてもいい、ただ創作の世界くらいは仲良しでいたかった。
何とか書き終え、プレーンテキストで出力して、後はWSLでflaskを動かして、ちゃんと動くのを確認してからAWSにデプロイする。
今日も由似は読んでくれるのだろうか?
そんなことを考えながらベッドに飛び込んだ。
意識が薄れていく中で、アクセス数が増える夢を見た
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