第2話 銀髪美女と隣席

 クラスメイト達は、もう紗雪の所に集まって騒がしいくらい質問攻めをして賑やかだ。


 あの容姿に上品そうなオーラ、まるで海外スターの様に眩しく蒼の目には映った。いい迷惑すぎるだろうと蒼は頷いた。


 蒼汰も紗雪に興味津々で積極的に話していた。騒がしいなと思いつつ紗雪の方を見ていると、紗雪の右斜め後ろに座っている美古都が頬を少し膨らませて、蒼汰が楽しそうに話しているのを少し悔しそうに見ていた。あれだけの美人と楽しそうに話しているのを見て焼いてしまうのは当然といえば当然だろうと思いながら蒼は美古都を見ていた。

 

 すると美古都が蒼の視線に気付き、目が合った瞬間何故か舌打ちをされ何故かそっぽを向かれた。

 

 いわゆるあれは普段は周りにツンツンしているけど、稀にまるで別人と思わせるようなデレの表情を見せる、通称『ツンデレ』という類に入るものだろう。蒼がずっと読んでいるラノベにも必ず一人はいるキャラクタ―だ。ツンデレは扱いがかなり面倒なので蒼はあまり好んではいない。だが、デレた時の可愛さはどれだけ破壊力があるのかは蒼にもよく分かることだ。

 

 すると突然、美古都が蒼に廊下に出て来いとジェスチャーを振ってきたので仕方なく廊下へ向かった。


「美古都、お前蒼汰に嫉妬してるんだろ。あんな美人と楽しそうに話しているのを見て」


「は、はぁ?わ、私が嫉妬してるわけないじゃん。どこをどう見たらそう見えるのか説明してちょうだい」


「いや、だって明らかに蒼汰が楽しそうに話してるの見て表情強張らせてし、俺と目が合った時もイラついてたしさ」


「こ、ここ、強張らせてなんかいないわよ!そ、そうゆう顔なのよ…。それに!あんたと目が合った時あんたがいかにもアホらしい面をかましててムカついたから舌打ちしただけだし」


 うん、完全に嫉妬している。言い訳が苦しまぐれすぎる。そして蒼はもう一つ確信した。

――完全にツンデレだろ


  美古都との会話を終えた蒼は何故か無駄に疲労がたまっていた。よし寝ようと思った次の瞬間、加藤先生が手を三回大きく叩いて注目を向けた。


「皆さん、新学期が始まって初日ですけど、皆さんが早く仲良くなれるようにと思ったので席替えを実施します!」


 これにはクラスのほとんどが大喜びをして、中には奇声を上げているちょっとイってそうな人もいた。

 

 生徒が大喜びをするのは分かるが、先生が何故生徒たちと同等なくらい喜んでいるのかは謎で仕方がなかった。二十三歳の先生がまるで子供のようにはしゃいでて何だか少し面白おかしかった。


「くじ引きで決めるから皆番号順に並んでください」


 先生に言われた通り、番号順に並んだ。


 そして加藤先生の慣れない手つきのせいということもあり、約四十分かけて新しい座席表が黒板に張り出された。


「俺どこだ?」


「私は―」


「俺、白崎さんの隣がいいな」


 最後のフレーズが一番多く蒼の耳に入ってきた。席替えなんて友人がほぼいない蒼にとってはどうでもよかった。唯一気にするといえば、一番後ろの席になれればいいやということだけだ。


 いざ自分の座席を確認したら、なんと、ベストポジションである一番後ろの教室のドアのすぐ横だ。


 普通は、授業中息抜き程度に窓の外を眺められる一番後ろの窓側がベストポジションだろう。だが、それは蒼にとっては全く関係のないことだ。何故なら、息抜きするほどモヤがたまらないからだ。


 だったら、最後の授業が終わった瞬間すぐに帰れる一番後ろのドア側がベストだと蒼は頷く。


 自分の席が想像以上に良くて上機嫌で一人でお花畑の映像を頭の中に浮かべていると、何やらたくさんのすごい視線を感じた。しかも獣が獲物を仕留めようとしているような視線

――ん、なんだ?


「おい蒼、ちょっと隣の席見てみろよ」


「ん、おぉ!蒼汰、お前美古都と隣か。よかったな!」


 更に獣の様な視線が鋭くなったのを感じた。


「あぁよかったよ…ってちげーよ!蒼の隣の席だよ」


「あ、俺かぁ…ん?」


 そこには『白崎紗雪』と書いてあった。


「あぁ、白崎さんだな。だからどうしたんだ?」


 完全に殺意を感じる眼差しに一気に変わった。


 お前は本当に何とも思わないのかよと、蒼汰に言われ改めて考えた。

 ――あ、めちゃめちゃ美人じゃん。

 

 蒼は周囲の男子が何故、獲物を狩るような視線を送っていたのかを瞬時に理解した。蒼汰もやれやれといった表情を浮かべていた。


 先生の座席の移動開始の合図とともに皆一斉に机の移動を始めた。移動中、すれ違う男子からはやはり鋭い視線を感じ、舌打ちをする者もいた。クラスの中でも物静かであまり他人に興味を持たない蒼が、たった一日でクラスの男子諸君を虜にした紗雪の隣なのだから、妬まれても仕方がないだろうと蒼は解釈した。


 自分達の席に着く、皆近くの人達と楽しそうに会話を弾ませていた。蒼汰と美古都はというと、蒼の席とは正反対の窓側の一番前の席だ。


 でも窓側の一番前というのは案外、先生達は視界に入れないこと多々あるので、仲の良い二人にとってはいい席だろう。美古都も席替え前の頬を少し膨らませて強張っていた顔とは真逆のすごい楽しそうに笑顔で話している表情を見せていたので、少し安堵な気分になった。


 偶然隣の席になった紗雪は、やはり周囲の席の人達から話しかけられ、まるで大スターなのかと思わされるくらいに優れたトーク力と対応力で、次々と話を持ち掛けてくる人達の会話を華やかに流していった。やはり一気に話しかけられるのは結構面倒臭いのかと感じられる様な対応で応えている紗雪をぼんやりと蒼は見つめていた。


 またまた先生が手を三回叩いて、注目を向けた。


「はい、次は隣の席の人と互いに自己紹介をしてください」

 

 新学期あるあるの自己紹介だ。まぁただ自分の名前、趣味や好きな食べ物を答えればすぐ終わるので、蒼はすぐに自己紹介を始めた。


「中村 蒼です。趣味は読書で、主にライトノベルを読んでいます。運動は恥ずかしながら…苦手です。一年間よろしくお願いします」


 淡々と自己紹介を終えた蒼はふぅーと一息ついて、紗雪の自己紹介を聞いた。


「白崎紗雪です。好きな食べ物はお饅頭です。」


 紗雪の自己紹介を周囲の男子はすごい幸せそうな顔で聞いていた。


「お饅頭好きだって、可愛すぎるだろ」


「いくらでもあげちまうよ」


 単純すぎるなと蒼は呆れていた。


 沙雪は綺麗な白銀に輝く長い髪を靡かせながら、淡々と蒼より長めの自己紹介をしている。

 

 紗雪が髪を靡かせると同時に、まるで花畑にいる様なほのかに甘い香りが鼻から伝わるのを蒼は感じていた。


 そして、そろそろ紗雪の自己紹介は終わりそうな感じだった。


「最後に、私の好きな人は…」


 次の瞬間、クラスの視線が一瞬にして紗雪の方を向いた。


「もしかして白崎さん、転校してきて一日目でこのクラスの誰かに一目惚れしたのか?」


「んな訳ねーだろ、前の学校の人とかじゃねーの」


「俳優さんとかかもしれないよ」


「そうだよ、俳優とかだよ。うん、間違いない」


 すぐに考察が始まった。皆の視線が紗雪に集中しているということもあり、蒼も注目されているような気になっていてその場に居たたまれない気持ちでいっぱいに

なっている。


 紗雪が続きを始めた。


「私の好きな人は…あなたよ」


 紗雪はあなたよと言って、自分の目の前を指さした。紗雪が指を指した人物は

 ――蒼であった。


 数秒ほど、三組の教室に沈黙の時間が流れて、皆の頭の中には疑問符ぎもんふが浮かんでいた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 教室に皆の驚きの声が響き渡った。


 そして紗雪は、蒼に男心を擽るあざとい小悪魔の様な笑みを浮かべながらこう言った。


「好きよ」


 その発言と共に、蒼は少しだけ動揺が隠し切れないまま、夢の中の少女が放った言葉と一致したことに気付いた。


 夢の中の少女が夢で放った言葉が、紗雪が放った言葉とシチュエーションが違くても一致しているし、容姿も一致しているという事に蒼は気付いた。

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