第35話 脱出作戦

 街に配達を装い侵入する。

 目的はもちろんコミュニティの顔役であるジュラムと会うためだ。

 ジュラムは集会があった宿屋の従業員らしい。

 俺はその宿屋に急いだ。

 ジュラムは宿の玄関で掃除をしていた。


「よう、話があってやって来た」

「お前、よくここに顔を出せたな。外で少し待ってろ。逃げるんじゃねえぞ」


 えらい剣幕だったな。

 騒ぎの元凶だから批判もやむなしだと思う。

 外でどうやって怒りをなだめようかと考える。

 考えがまとまらないうちにジュラムが出てきた。


「ちょっと、裏に来い」


 宿の裏手に回る。


「とりあえず聞いてくれ。すまん。考えが足りなかった。教会を壊滅させれば禁忌持ちの状況がよくなると思ったんだ」

「ふん、言い訳だな」

「じゃあ、怯えるように暮らすのが人間らしいと言えるのか」

「それに関しては俺も思うところはある。しかし、平和な生活を壊す権利はないだろう」

「森の奥に開拓地を作っている。そこなら怯える必要も無く暮らしていける」

「話のすり替えだな」

「よし、ならば責任をとろう」

「どうやって責任をとるんだ」

「領主をヴァンパイアにする。それで、生活を元に戻す」

「本当だな。撤回はできないぞ」

「今すぐとはいかないが必ずやる。それでとりあえず森の奥に避難して欲しいんだ」

「分かった。弟子を取った貸しと帳消しで避難に応じてやろう」


「トンネルを掘って脱出させるつもりだ」

「みんなの説得は俺がしてやろう」

「頼む」


 ふぃー、一時はどうなるかと思ったが何とかなった。

 これで一安心だ。


 店への帰り道、街の至る所に張り紙がしてあるのに気づいた。


「えーと、『教会壊滅の犯人、極悪人ジェノサイドの逮捕に協力を』か」


 俺達の通り名はジェノサイドか。

 ふと俺は雑貨屋が気になって立ち寄る事にした。


「邪魔するよ」

「おお、あんたかい。ここんところ、騒がしくっていけねぇ」

「そうかい。俺も迷惑しているところだ」

「我慢ももうすぐ終わりだよ。鑑定士が各家を回り片っ端からいぶり出すって事らしい」


 これは急がないと。


「すいません、急用ができた。また来ます」


 俺はアルバイトを頼むコミュニティのメンバーを尋ねた。

 ドアを乱暴に叩く。


「急用で神官様に会いたい。場所を教えてくれ」

「何よ。うるさいわね。急ぎみたいね。今、開けるわ」


 ドアが開けられ彼女が顔を出した。

 彼女から場所を聞いてスラムを目指す。

 スラムの入り口では検問を行っていた。


「次。見ない顔だな。スラムになんのようだ」

「薬をスラムの知り合いに持って行きたいのです」

「ああ、昨日は女だったが、今日は男か」

「ええ、街が騒がしいので女性では危ないと思い私が来ました」

「職業はゴーレム使いか」

「ええ、見ての通りです」


 兵士が俺の持ち物を改める。


「よし、通っていいぞ」

「ご苦労様です」


 検問は無事に突破できたな。

 隠れ家に行くと浮浪者に扮した見張りがいる。


「全てに平等を」


 俺がそう言うと見張りはベルを鳴らした。


「全てに平等を」


 そう見張りが返すと隠れ家のドアが開いた。


「踏み絵を踏んでから中に入るんだ」


 俺は躊躇ちゅうちょなく踏み絵を踏んで中に入った。


「大変な事になった。兵士が一軒一軒を調べて回るそうだ」


 俺の言葉を聞いて、ざわめきが起こる。


「そんな」

「そこまでして弾圧したいのか」

「横暴を許すな」


「みなさん、落ち着きなさい。彼の話を聞きましょう」


 チンピラ神官がそう言って信者らをなだめた。


「約束された平和な地があるのです。みなさんで避難しましょう」

「私が前もって楽園を用意していたのです。出立の準備を整えますよ」

「はい、神官様」

「流石は神官様だ」

「先見の明がおありだ」


 これで避難はなんとかなりそうだ。

 村に帰るとビーセスは既にビックモールを従えていた。

 ビックモールは軽トラぐらいの大きさがあり、これなら人が通れるトンネルを掘れると確信した。


「凄いじゃないか一日だぞ」

「あたいに掛かれば楽勝さと言いたいが、ミディに助けられた。索敵も魔獣を操って地表まで持ってきたのもミディさ」

「ほめて、ほめて」

「えらいぞ、ミディ。頭を撫でてやろう」

「もう、すぐに子供扱いする」


「ミディ、二人を呼んで来てくれ。すぐに出発する」


 問題はビックモールをどうやって街まで運ぶかだ。

 地中を進ませると当然の事ながらもの凄く時間が掛かる。

 昼間はダークカーテンも使えない。

 夜、地上を走らせても馬より遥かに遅いので、夜が明ける。

 荷馬車に乗せられる大きさと重さではない。


 さて、どうするかだ。

 まとめて運ぶのが問題なら分割してしまえば良い。

 アンデッドにするのだ。

 そして分割して輸送する。

 村には五台の荷馬車がある。

 急な肉の配達があると言って手伝ってもらおう。

 そうすれば夕暮れ前に街に着けるはずだ。


 そして、深夜までにトンネルを完成できる。

 だが、問題はまだある。

 街の外に出した人達をどうやって開拓地に運ぶかだ。

 とうぜん開拓地の場所は知られたくない。

 ダークカーテンの使用も一人では限界がある。

 コミュニティのメンバーが手伝ってくれて、全員に魔法を掛けたとしても、歩きでは夜が明けてしまう。

 ここは一つ呪術師にお願いするか。


「人間を動物にする呪いを掛けられるか」


 ミディに呼ばれてきたジュサに俺は尋ねた。


「できるけど。ただ、大きさは変えられないわよ。体力も歩く速さもほぼ人間のままね」

「よし、これで目処めどがたった」


 問題はなんの動物にするかだ。

 ゆっくり行くなら羊で良いだろう。

 帰りはゆっくりと羊の大群と帰るか。

 食料は野営地に家畜用の餌の備蓄がある。

 騎馬の集団なんかも利用するから備蓄は十分だ。

 金は掛かるけどしょうがない。


 俺は村に行き手伝いを頼んだ。

 村人は快く手伝いを引き受けてくれた。


 連日の徹夜だ。

 おっさんにはこたえるが、ここが我慢のしどころだろう。

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