第6章 チーム・フリーダークから始まる大脱出

第32話 一夜明けて

「おはよう」


 俺は漬物小屋に入って既にいるフランダルとシュガイに朝の挨拶をした。

 昨日は大活躍だったから、ジュサとシャデリーはまだ寝ているようだ。

 ビーセスとミディは何時いつも別行動だから分からない。

 たぶん寝ているのだろう。


「おはようございます」

「おはようっす」


 フランダルとシュガイが挨拶を返す。


「悪いな、今日は二人で村まで行って、野菜を持ってきてくれるか」

「はい」

「うっす」


 実はあの後あまり眠れてない。

 罪の意識にさいなまれたという訳ではない。

 興奮したのとも違う。

 なんというか覚悟を決めるのに考えてしまったのだ。

 今は吹っ切っているつもりだ。

 さて、二人が野菜を村に取りに行く間に何をしよう。

 そうだ、漬物について考えよう。


 漬物は野菜と塩を入れると乳酸菌が野菜の栄養を食って旨味成分をだす。

 塩は乳酸菌には必要ない。

 雑菌の繁殖を抑えるために入れる。

 ぬか床の塩が少ないとカビるのだよな。

 田舎のばあちゃんが言っていた。


 塩を入れすぎると塩辛くなってしまうんだよな。

 それで野菜を漬ける時間を調節するのだけどこれの按配あんばいが難しい。

 気温でも漬き方が変わってしまう。

 漬ける時間が短いと乳酸菌が上手く働かない。

 アンデッドはこの点が気楽だよな。

 菌のゾンビが命令通り動いてくれる。

 それに良くかき回さないといけない。

 でないと乳酸菌が酸欠で死ぬからだ。

 菌のゾンビは息して無いから関係ない。

 まったく漬物に菌のゾンビはチートだな。




 あれ、消化機能はグールにしか備わっていないのじゃなかったかな。

 グールは使えないと思ってあまり今まで使ってこなかったけど。

 おかしい。

 乳酸菌のゾンビだって野菜の栄養を食って旨味成分に変えているじゃないか。

 それって、消化機能だろう。


 禁書を見直してみた。

 なんだって。

 グールは食物から魔力を吸収する事ができるって書いてあるじゃないか。

 これは永久機関完成か。

 続けて読むとグールが一日活動する魔力を得るには、一日中食べ続けなければならないと書いてある。

 上手い話ではなかったな。


 ちぇ、なんだよ。

 グール軍団無双とか考えたのに。


 漬物の話に思考を戻そう。

 聖水漬けのプロセスは大根と乳酸菌の屍骸をゾンビに変える。

 乳酸菌ゾンビは別個体である大根ゾンビを食って、旨味成分に変えると。

 通りでレベル3から作れるはずだ。

 合成アンデッドではなかったのだな。

 要は大根と乳酸菌のゾンビが繰り出すコンボなのだな。

 納得した。


 ヴァンパイアも物を食えるしな。

 あれ、トゥルーヴァンパイアはどうやって配下にしたヴァンパイアの魔力を調達しているんだ。

 都市一つ分のヴァンパイアなんて、普通はまかなえない。

 禁書にはトゥルーヴァンパイアの事は詳しく載っていない。

 作るには推定でレベル80だ。

 そんなレベルになった人がいるなんて俺には信じられない。


 禁書のヴァンパイアの所をよく読む。

 結果、分かったのは血を飲むと魔力が回復するらしい。

 それと眠りにく事ができると書いてある。

 眠りの最中は魔力を消費しないとある。

 おお、冬眠か。

 チンピラヴァンパイアに悪い事したな。

 今度からたまには休ませてやろう。


 それと太陽の光は地味にダメージになるようだ。

 これは全てのアンデッドに共通している。

 これからは禁書をもっとよく読まないと。

 だけど、言い回しが難しくて理解するのに時間が掛かるんだよな。

 まるで旧仮名遣いの難しい医学書を読んでいる気分にさせられる。

 転移チートもっと仕事しろ。


「ただいま戻りました」

「すぐに漬物にするっす」

「おう、ゆっくりで良いぞ」


 聖水漬けができた時、来客があった。


「こんにちは」

「いらっしゃい」


 そこに居たのは緑の神官服を着た先遣隊の面々とチンピラヴァンパイアだった。


「魔力をヴァンパイアにぱぱっと与えるから、村まで乗っていくかい」

「ええ、助かります」


 漬物と人間を乗せて村に出発した。


「狭くて悪いね。これから街まで納品なんだ」

「乗せてもらえるだけありがたいです。サクタさんの家に来るまで大変でした」

「開拓地の家が完成したら、今度は道を作るか」

「それはありがたいです。悪路はこりごりです」


 そうなんだよな。

 開拓地までは道なき道だからしんどい。

 俺も高いレベルと鉈を振るって先導するアンデッドがないとやってられない。


 村に着いたようだ。

 猟師が家から村までの馬車が通れる道を作っておいてくれて感謝だ。

 俺がやったのはアンデッドに命じて雑草を刈らせたぐらいだからな。

 猟師は獲った獲物を村に運ぶ為に必要だったのかもしれないが、本当に感謝しかない。


 村は何時も通りの佇まいだ。

 元気に走り回る子供の声。

 畑で仕事に精をだす農夫。

 こういう長閑のどかな風景は良い。

 ほっとする。

 さて、これから俺の戦場が待っている。

 街は教会壊滅の噂で持ちきりだろうな。

 まだ聖騎士の大軍は到着してはいないはずだ。

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